「暴力団排除条例」の廃止を求め、「暴対法改定」に反対する表現者の共同声明
二〇一一年・平成二三年一〇月一日に東京都と沖縄県が暴力団排除条例(「暴排条例」)を施行した。その結果、全都道府県で暴排条例が施行されることになった。こうした事態にいたるまで、わたしたち表現者が反対の意思表明ができなかったことを深く反省する。
わたしたち表現者も、安全な社会を否定するものでは決してない。しかし、その「安全な社会」の実現を謳いながら、「暴排条例」は、権力者が国民のあいだに線引きをおこない、特定の人びとを社会から排除しようとするものである。これは、すべての人びとがもつ法の下で平等に生きていく権利を著しく脅かすものである。
暴対法は、ヤクザにしかなれない人間たちが社会にいることをまったく知ろうとしない警察庁のキャリア官僚たちにより作られた。さらに危険なことは、暴力団排除を徹底するために、表現の自由が脅かされることだろう。
条例施行以後、警察による恣意的な運用により、ヤクザをテーマにした書籍、映画などを閉め出す動きをはじめ、各地各方面で表現の自由が犯される事態が生まれている。こうしたなかで、金融、建設、港湾、出版、映画などさまざまな業界で、「反社会的勢力の排除」「暴力団排除」をかかげた自主規制の動きが浸透しつつある。萎縮がさらなる萎縮を呼び起こす危険が現実のものになっている。
いまからでも遅くない。暴排条例は廃止されるべきである。
こうした流れのなかで、新年早々から、一部の勢力が暴対法のさらなる改悪を進めようとしていることに、わたしたちは注意を向けなければならない。
かねて福岡県知事らは、法務省に対して暴対法の改定を求めて要請を続け、これを受けて警察庁は暴対法に関する有識者会議を開催して準備を始めている。
そこでは、現行法のさまざまな要件の緩和、規制範囲の拡大が検討されている。昨年暮れには、福岡県知事らが暴力団に対する通信傍受の規制緩和やおとり捜査・司法取引の積極的導入を法務大臣に直接要請したことが報じられた。
暴対法がこうした方向で改悪されるならば、表現の自由、報道の自由、通信の自由、結社の自由などの国民の基本的権利はさらなる危機に立つことになるだろう。
ヤクザの存在は、その国の文明度を示すメルクマールでもある。たとえば北朝鮮にはヤクザはいないと言われている。戦前の社会主義者の規制が全国民への弾圧に拡大したように、暴対法は「暴力団」の規制から国民すべてを規制する法律として運用されることになるだろう。これは、わたしたちに「治安維持法」の再来を含めた自由抑圧国家の成立を想起させる。
わたしたちはこうした動きに強く警戒し、強く反対する。わたしたち表現者は、自由な表現ができてこそ表現者として存在できるのであり、表現者の存在理由を否定し、「自由の死」を意味する暴排条例の廃止を求め、暴対法の更なる改悪に反対する。
二〇一二年・平成二四年一月二四日
【賛同者】(アイウエオ順)二〇一二年二月一四日現在
青木理(ジャーナリスト)/猪野健治(ジャーナリスト)/植草一秀(経済評論家)/魚住昭(ジャーナリスト)/大谷昭宏(ジャーナリスト)/岡留安則(元『噂の眞相』編集長・発行人)/小沢遼子(評論家)/角岡伸彦(ジャーナリスト)/萱野稔人(哲学者)/喜納昌吉(ミュージシャン)/栗本慎一郎(有明教育芸術短期大学学長、評論家)/斎藤貴男(ジャーナリスト)/齋藤三雄(ジャーナリスト)/佐高信(週刊金曜日編集委員)/佐藤優(作家)/設楽清嗣(東京管理職ユニオン執行委員長)/鈴木邦男(一水会顧問)/須田慎一郎(ジャーナリスト)/高野孟(評論家)/高橋伴明(映画監督)/田原総一朗(ジャーナリスト)/辻井喬(詩人、作家)/西部邁(評論家)/日名子暁(ルポライター)/平野悠(ライブハウスロフトオーナー)/三上治(評論家)/みなみあめん坊(部落解放同盟)/南丘喜八郎(『月刊日本』主幹)/宮崎学(作家)/宮台真司(社会学者・首都大学東京教授)/山平重樹(ジャーナリスト)/若松孝二(映画監督)
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