書評

『王室・後宮・奥・ハレム: 歴史学のなかのジェンダーを考える』(山川出版社)

  • 2026/08/04
王室・後宮・奥・ハレム: 歴史学のなかのジェンダーを考える / 神田 裕理(編)
王室・後宮・奥・ハレム: 歴史学のなかのジェンダーを考える
  • 著者:神田 裕理(編)
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2026-03-25
  • ISBN-10:4634591588
  • ISBN-13:978-4634591585
内容紹介:
「見えないもの」を視る 「ジェンダー研究2.0」を見据え、 新たな視点で挑む 宮廷女性の比較史、刊行!日本、東アジア、西洋、イスラム――王を支えた女性たちはどのように生き、どのような役割… もっと読む
「見えないもの」を視る 「ジェンダー研究2.0」を見据え、 新たな視点で挑む 宮廷女性の比較史、刊行!
日本、東アジア、西洋、イスラム――王を支えた女性たちはどのように生き、どのような役割を果たしたのか? 社会構造における共通性、独自性はなにか? 宮廷女性をキーワードに時代や地域を横断し、政治に参加した女性の姿を浮かび上がらせる。 --------------------------------後宮・奧・ハレムと呼ばれる日本・アジアのみならずヨーロッパ諸国の「奥向き」について、組織面・制度面、そこに属する人々(后・妃嬪。女官・男官)に加え、彼ら彼女たちが携わった儀礼・文化にも目配りしながら検討を行った。地域・時代を越えた比較検討を行うことで、多様性を見いだすことが可能となり、多彩な「宮廷女性」像・「奥向き」像を提示することができたと自負している。(「はじめに」より)

座談会 宮廷女性研究の現在と未来

第1部 宮廷内で働く女官・女房たちの仕事から考える
「采女」と女性の「貢」――日本古代国家の人材登用と男女の出仕(伊集院葉子)/中世日本の「後宮」――後継者の「生産」に果たした役割(松薗斉)/女房としての紫式部(倉本一宏)/後宮女房の生涯と人事――中世~近世移行期日本の女房職の相伝性(神田裕理)/明代の女官について――後宮の管理と後宮儀礼の実態(前田尚美)

第2部 性差から宮廷内の役割を考える
中世日本の日記における女性のよばれ方(村井章介)/オスマン帝国ハレムのジェンダー秩序(小笠原弘幸)/モンゴル帝国の宮廷の女性が果たした政治的役割(宇野伸浩)/レディース・イン・ウェイティングの役割とその影響(山木聖史)

第3部 出自・身分・宗教による所属集団から考える
尼となる后妃たち――南北朝~隋唐時代の後宮(松下憲一)/足利将軍家の「妻(室)」と「母」――その呼称をめぐって(木下昌規)/室町・戦国期の尼寺と尼僧――南御所・入江殿を中心に(髙鳥廉)/幕末維新期の公家女性と奥――菊亭美子の妻・未亡人・母として担った役割(田中暁龍)/女子修道院の歴史とその文化活動(滝澤修身)

宮廷女性の政治力を活写、国際比較

本書は「宮廷女性」を国際比較した最新の成果だ。

世界中のあらゆる時代に世襲王権は存在する。王室のなかに後宮・奥・ハレム等とよばれる女性の集団居住区があり、そこが女官や宦官(かんがん)で管理され、出産による王室の再生産がなされる。宮廷女性の集団は王の母后と女官と下働きで構成される。宮廷女性の集団が、日本・明代(中国)のみならずモンゴル帝国・オスマン帝国・イングランドで、それぞれ、どのような特質をもっていたかを論じている。諸外国の例は中世が中心であるが、日本は古代・中世・近世と長いスパンで検討している。手軽な単行本だが、座談会を入れれば、全体で十五章におよぶ研究が詰められているから、すべてを紹介できない。ただ、これを通読すれば、宮廷の中のキャリア女性の国際比較ができる。

現代日本は女性の政治参画で世界ランキングの下位にある。いつの時代もそうであったわけではない。日本でも奈良時代は比較的女性の政治関与度が高いと感じていたが、本書でそれが確信に変わった。古代日本は父方母方の双方から地位を継承する「双方的な社会」であったため、とされる。

男女の区別が厳格であった中国も唐代には男装する女性がみられた。日本では平安前期に天皇と皇后が同居する流れとなって中国型の後宮に近づくが「中途半端」に終わったらしい。日本型の後宮は宮廷の女性居住区の閉鎖が緩く、宦官もいない。后妃のもとに父兄弟がかなり自由に出入りした。皇位継承にも後宮の女院が力を及ぼした。天皇の御所には女官がおり、神器を管理し天皇の命令を奉じた書類も発する。これが中世には特定の家の世襲相伝で「おば―姪(めい)」等で継承された。近世にはこれが公務経験重視に変わる。明朝でも後宮女官が皇帝の印章を管理し一日に九十回ほども使用手続きをしていたらしい。日本でも明朝でも女官は儀式遂行の役割を担った。ただ、本書によれば、紫式部は執筆に専念するため雑用を免除されていた可能性が高いという。

女官が後宮に閉じ込められる程度や結婚が許されるかなど、国際比較する視点をきめて本書を読んでいくことをお勧めする。そうすると一層、面白い。

イングランドの女官は良縁を狙いつつ宮廷で働き、王宮に監禁状態でもなさそうである。王族の「話し相手」にもなるから政治的影響力を女官がもちえた。オスマン帝国のハレムの宮廷女性は奴隷で閉鎖環境におかれ、黒人宦官の監視の目もきいていそうだ。それでも母后になれば、オスマンでもモンゴル帝国でも政治的に力を発揮しているようだ。特に、中世のモンゴル帝国と日本では、帝王の寵愛(ちょうあい)をうけ、女院や母后に登った女性が皇位の後継者を決定する力が強そうだ。

幕末の公家女性についても学びがあった。公家の娘の嫁ぎ先で当主が病死し幼い当主が立つと、公家の女性は婚家の家政を取り仕切った。女性も当主さながらに応対し、家の方針を決定した。

王族貴族でも女性は男性より記録に残されにくい。しかし、想像以上に活動している。歴史時代に女性が仕事をし政治力を発揮していた現場を活写した一冊である。
王室・後宮・奥・ハレム: 歴史学のなかのジェンダーを考える / 神田 裕理(編)
王室・後宮・奥・ハレム: 歴史学のなかのジェンダーを考える
  • 著者:神田 裕理(編)
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2026-03-25
  • ISBN-10:4634591588
  • ISBN-13:978-4634591585
内容紹介:
「見えないもの」を視る 「ジェンダー研究2.0」を見据え、 新たな視点で挑む 宮廷女性の比較史、刊行!日本、東アジア、西洋、イスラム――王を支えた女性たちはどのように生き、どのような役割… もっと読む
「見えないもの」を視る 「ジェンダー研究2.0」を見据え、 新たな視点で挑む 宮廷女性の比較史、刊行!
日本、東アジア、西洋、イスラム――王を支えた女性たちはどのように生き、どのような役割を果たしたのか? 社会構造における共通性、独自性はなにか? 宮廷女性をキーワードに時代や地域を横断し、政治に参加した女性の姿を浮かび上がらせる。 --------------------------------後宮・奧・ハレムと呼ばれる日本・アジアのみならずヨーロッパ諸国の「奥向き」について、組織面・制度面、そこに属する人々(后・妃嬪。女官・男官)に加え、彼ら彼女たちが携わった儀礼・文化にも目配りしながら検討を行った。地域・時代を越えた比較検討を行うことで、多様性を見いだすことが可能となり、多彩な「宮廷女性」像・「奥向き」像を提示することができたと自負している。(「はじめに」より)

座談会 宮廷女性研究の現在と未来

第1部 宮廷内で働く女官・女房たちの仕事から考える
「采女」と女性の「貢」――日本古代国家の人材登用と男女の出仕(伊集院葉子)/中世日本の「後宮」――後継者の「生産」に果たした役割(松薗斉)/女房としての紫式部(倉本一宏)/後宮女房の生涯と人事――中世~近世移行期日本の女房職の相伝性(神田裕理)/明代の女官について――後宮の管理と後宮儀礼の実態(前田尚美)

第2部 性差から宮廷内の役割を考える
中世日本の日記における女性のよばれ方(村井章介)/オスマン帝国ハレムのジェンダー秩序(小笠原弘幸)/モンゴル帝国の宮廷の女性が果たした政治的役割(宇野伸浩)/レディース・イン・ウェイティングの役割とその影響(山木聖史)

第3部 出自・身分・宗教による所属集団から考える
尼となる后妃たち――南北朝~隋唐時代の後宮(松下憲一)/足利将軍家の「妻(室)」と「母」――その呼称をめぐって(木下昌規)/室町・戦国期の尼寺と尼僧――南御所・入江殿を中心に(髙鳥廉)/幕末維新期の公家女性と奥――菊亭美子の妻・未亡人・母として担った役割(田中暁龍)/女子修道院の歴史とその文化活動(滝澤修身)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年7月25日

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