『身の維新』(亜紀書房)
永江 朗
幕末から明治にかけての医学と政治のかかわりを医師たちの肖像を通じて鳥瞰した力作。
フーコーの『狂気の歴史』の方法が日本にも定着したことを実感させる。
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〈 幕末の動乱のなか、医師たちはその時々の情勢、自らの信じるもののために闘った 〉
[幕府側=漢方][新政府=西洋医学]──そのような単純な対立では語れない。
幕末の和方医、漢方医、蘭方医の群像を描く骨太の歴史ノンフィクション。
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日本医学史の書を見ると、江戸時代後期の蘭方医学の歩みに重きを置いて、西洋医学化を「医学の曙」として描いているものが多い。
医学の西洋化をゴールとして、それまでの医学が価値づけられがちだった。
そのような現代人の価値観を前提にして書かれた歴史は、当時の人々が生きていた歴史からはずいぶん遠いものだろう。
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■「古医道」を確立した権田直助は、倒幕の志士となり、岩倉具視のスパイとなった。
■浅田宗伯はのちの大正天皇を救ったカリスマ漢方医。明治期も町の人々を無料で治療し続けた。
■幕臣・蘭学医・松本良順は、戊辰戦争で負傷者を治療。軍医という概念をはじめて持った人。
■西洋医・相良知安は、新政府でドイツ医学を採用させた立役者。最後は易者として貧民街に生きた。
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人の身体について自由に語ることができた時代。
和方医、漢方医、蘭方医らの身体観・医療観を賭けた闘いは、もう一つの維新史。
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