書評

『ひとつの町のかたち』(書肆心水)

  • 2026/04/30
ひとつの町のかたち / ジュリアン・グラック
ひとつの町のかたち
  • 著者:ジュリアン・グラック
  • 翻訳:永井 敦子
  • 出版社:書肆心水
  • 装丁:単行本(283ページ)
  • 発売日:2004-11-01
  • ISBN-10:4902854015
  • ISBN-13:978-4902854015
内容紹介:
図の町とは似ても似つかない、ひとの数だけある心のなかの町のかたち。少年と町、そして心の形成と変容をめぐっての、エキセントリックでも相対主義的でもない思想とリアリティ。 ゴンクー… もっと読む
図の町とは似ても似つかない、ひとの数だけある心のなかの町のかたち。

少年と町、そして心の形成と変容をめぐっての、エキセントリックでも相対主義的でもない思想とリアリティ。 ゴンクール賞受賞拒否事件で知られる、地理学者でもあるシュルレアリスム系の文豪、後期主著初訳。

自己の過去と取り結ぶユーモアある清々しい関係が、「過去→現在→未来」の常識を一新し、自己と世界をつくりかえてゆく。 「少年と町」の記憶と無数の文学作品の引用が呼応する、創造的な思い出の旅。

「ではこれからナントの街並みをたどりなおしてみよう。過去と 出会って自己陶酔に浸り直すためではなく、私がそれらの街並みを介してなったものと、街並みが私 を介してなったものとに出会うために。」(J.G.)

記憶の中の都市ナント淡々と

シュールレアリスムの作家と若干の接点を持っていたとはいえ、いかなる文学流派にも属さず、フランスの名誉ある文学賞も辞退したことのあるジュリアン・グラックは、私にとってはすでに文学史の中の人だった。恥ずべきことだが、彼が生きて、生家に暮らし、散歩と読書と執筆の日々を送っていることさえ、知らなかった。御年、九四歳。健康と健筆を祈らずにいられない。

本書は、一九八五年にグラックが上梓したものの全訳だが、ナントという町でグラックが過ごした数年を元に、ナントが生き直される。いや、グラックの言うところによれば、町が人を生かすのであり、そこには相互作用がある。だがグラックはただナントという町をまるで肖像を描くように浮かび上がらせるのではない。記憶の中の都市を、何かいとおしむような筆ぶりで淡々と描き出す。

地形と地図と地名が、現実の都市と、記憶の中の都市との間で呼び交わされ、静かに呼吸する。無数の文学作品が縦横に引用される。読むのが惜しくなるくらい、贅沢な時間を経験した。本当に久しぶりだ。大変だったに違いない訳業にも感謝。注も丁寧で〇。永井敦子訳。


ひとつの町のかたち / ジュリアン・グラック
ひとつの町のかたち
  • 著者:ジュリアン・グラック
  • 翻訳:永井 敦子
  • 出版社:書肆心水
  • 装丁:単行本(283ページ)
  • 発売日:2004-11-01
  • ISBN-10:4902854015
  • ISBN-13:978-4902854015
内容紹介:
図の町とは似ても似つかない、ひとの数だけある心のなかの町のかたち。少年と町、そして心の形成と変容をめぐっての、エキセントリックでも相対主義的でもない思想とリアリティ。 ゴンクー… もっと読む
図の町とは似ても似つかない、ひとの数だけある心のなかの町のかたち。

少年と町、そして心の形成と変容をめぐっての、エキセントリックでも相対主義的でもない思想とリアリティ。 ゴンクール賞受賞拒否事件で知られる、地理学者でもあるシュルレアリスム系の文豪、後期主著初訳。

自己の過去と取り結ぶユーモアある清々しい関係が、「過去→現在→未来」の常識を一新し、自己と世界をつくりかえてゆく。 「少年と町」の記憶と無数の文学作品の引用が呼応する、創造的な思い出の旅。

「ではこれからナントの街並みをたどりなおしてみよう。過去と 出会って自己陶酔に浸り直すためではなく、私がそれらの街並みを介してなったものと、街並みが私 を介してなったものとに出会うために。」(J.G.)

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2005年1月6日

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