書評

『ユリシーズの涙』(みすず書房)

  • 2025/09/04
ユリシーズの涙 / ロジェ・グルニエ
ユリシーズの涙
  • 著者:ロジェ・グルニエ
  • 翻訳:宮下志朗
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(155ページ)
  • 発売日:2000-12-09
  • ISBN-10:462204529X
  • ISBN-13:978-4622045298
内容紹介:
グルニエが愛犬と過ごした日々の回想と、文学や歴史のなかの犬をめぐる思索とが織り成す、43の断章からなるエッセイ。人生を知りつくした短篇の名手による愛犬家と厭犬家のための本。
犬を扱った傑作小説は数多い。その中から一冊だけ選べだなんて、ケモノバカ一代を自認するわたしには、胸が痛んで土台無理。せめて十ページくれんかなあ。そしたら五十冊紹介するんだけど。ダメ? じゃあ、奥の手を。『フラゴナールの婚約者』(みすず書房)をはじめとする傑作小説や、チェーホフの思索的評伝で知られるフランスの作家ロジェ・グルニエの随筆集『ユリシーズの涙』なら、一石二鳥ならぬ一石五十犬なのだ。

愛犬を失ったグルニエが、その思い出に導かれるようにして、犬をテーマにしたさまざまな文学作品をひもとく。これは犬についての名エッセイ集であると同時に、愛犬家にはうれしいブックガイドにもなっている本なのだ。ギリシャ神話の英雄ユリシーズの忠犬アルゴスのエピソードを皮切りに、リルケの『マルテの手記』、ヴァージニア・ウルフの『フラッシュ』、カフカやセルバンテスの諸短編、ダニエル・ペナックの愉快なミステリー『人喰い鬼のお愉しみ』、D・H・ロレンスの『レックス』、ショーペンハウアーの警句、ジッドの日記、ジャック・ロンドンの『白い牙』、馬琴の『南総里見八犬伝』など、さまざまな小説に登場する犬たちを、かすかなユーモアをたたえた端正な文章で紹介。かつ、自分が愛犬と過ごした日々の中、繊細な観察眼で見いだした、犬が人と共にあるときに覚える歓びや哀しみ、誇り、不安、絶望を、それら優れた古今東西の名作に重ねながら語っているのだ。

とはいえ、あの小説が取り上げられていないのは大いに不満。あの小説とは、ダニロ・キシュの短編集『若き日の哀しみ』(東京創元社)に収められた「少年と犬」だ。それはもうせつないせつない物語なんである。「僕は感じるのだ、この別れのあと僕は生きていられないだろう、と。アウウウ、アウウウ」……号泣っ。読めばわかる!




【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ユリシーズの涙 / ロジェ・グルニエ
ユリシーズの涙
  • 著者:ロジェ・グルニエ
  • 翻訳:宮下志朗
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(155ページ)
  • 発売日:2000-12-09
  • ISBN-10:462204529X
  • ISBN-13:978-4622045298
内容紹介:
グルニエが愛犬と過ごした日々の回想と、文学や歴史のなかの犬をめぐる思索とが織り成す、43の断章からなるエッセイ。人生を知りつくした短篇の名手による愛犬家と厭犬家のための本。

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