書評
『「明大前」物語』(筑摩書房)
セピア色の学生街甦る
どんな人にも自分が生まれ育った街があり、その街は日本に暮らしている限りにおいて、たぶん例外なく開発のブルドーザーに地ならしされ、昔の面影をとどめない街に変貌している。著者・窪島誠一郎は、明大前で育った。「塔」という名前のスナックを経営していたのも、明大前である。この街は、井の頭線と京王線の交差する交通の要所で、しかも再開発の最中である。
にもかかわらず、である。劇場の街・下北沢や、近くに高級住宅地を抱える下高井戸に比べて、いま一つ、発展しきれないのが、明大前である。
理由はただ一つ。この街が、明治大学抜きには語れない街だからである。学生がいない夏休みや長い春休みには、どうしても過疎の街になる。学生相手の店は、商売が不安定。ただ、それでも、いろんな商売の人が住み、いろんなキャラクターの人が行き交った。そのセピア色の町並みを見事に再現しているのが、この本なのである。
帯に「あの時代の匂いが甦る」とある通り、私は本の中で数十年前の明大前にタイムスリップしてしまった。ちなみに私は週二回、いまも明大前に通っている。
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