書評
『一階でも二階でもない夜 - 回送電車II』(中央公論新社)
懐かしさ呼び覚ます筆致
堀江敏幸の真骨頂は文章の端正さにある。だから彼の書く文章が小説なのか、エッセイなのかなどと問うことにはほとんど意味がない。今度上梓された『一階でも二階でもない夜』はタイトルからしてすでにどこでもない場所、中心ではない空間、忘れ去られた事物にどうしようもなく引き寄せられてしまう著者の偏愛ぶりがうかがえる。
たしかに、ロトリングの万年筆、「樹脂版」、ブルヴァール・マッセナ駅、島村利正……と続く固有名詞は、ほとんどの読者が聞きなれないものかもしれない。だが、堀江の筆にかかると未知のどんな事物でも、どこかくすんだ懐かしい記憶の中に息づいているような気がするのだから、不思議だ。
書き手の意識から言えば、『熊の敷石』や『雪沼とその周辺』ほど虚構の意識は高くない。ほとんどの文章はこれまでいろんな媒体に随筆として発表されたものである。
だが不思議なくらい通奏低音は一貫している。そう、職人技なのだ。目の前にある木材を正確に計測し、きちんと加工し、頭の中にあるイメージ通りに組み上げていく。読書の時間が豊かになる。
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