書評
『LOVE』(新潮社)
土地描き出す才能に瞠目
東京をスケッチした小説集。だが、凡百の写生小説とはまったく違う。まず、語り手の視点が透明だ。いちおう「おれ」が語り手になって登場人物を記述しているようにも見えるが、いつの間にか、登場人物の一人称が小説を支配していたり、別の人物の内面が語られていたりする。普通、これだけいろんな人物が出てきて、語りの視点を交換すれば、小説はハチャメチャになるのに、破綻がないところは凄(すご)い。それから本書では東京の目黒から五反田、品川を徘徊(はいかい)する人と猫が描かれているけれど、彼らがどんな人物で、どんな暮らしをしているかは、ほとんど描かれない。たとえばミュージシャンと主婦とOLとジムに勤める若い男は出会って、事件が起こり、唐突に終わる。周到に描かれるのは、JRの駅周辺の地理。でも、登場人物の会話や挙措から、彼らがとても魅力的であることがわかる。
じつは私は小説に描かれた辺りに住んでいる。目黒の五百羅漢寺から不動尊のあたりを歩き回る話を読みながら、地形が正確に描写されているのに、私の感覚と大きく違うことに驚く。古川の、土地を描き出す才能に瞠目(どうもく)した。まったく、大した才能だ!
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