魂を揺り動かす朗読
古川日出男という作家は、いまの日本の作家には珍しい、声をともなった作家である。古川さんの小説を読んでいると、彼の声が聞こえて来る。もちろん古川さんの朗読する姿をどこかで目撃したことがあり、その経験が下敷きになって、つまりそのとき耳にした古川さんの声をサンプリングして、黙読している最中にも、彼の、あの独特の声によって小説が読まれているようなライヴ感に襲われるのだ。
その古川さんがテキストとそのテキストを朗読したCDつきの本を出した。なんと、テキストは宮澤賢治「春と修羅」だという……。
急いで聴いた。何と言えばいいだろう。こればっかりは、聴いてもらうしかないのだが、古川さんが賢治の詩を朗読している間、魂の深いところで揺り動かされた。「魂」なんて平凡な言葉だが、それしか言い表せない。
古川日出男は福島の人間だ。この本に文章を寄せている管啓次郎は、「福島の子」という言い方をしている。古川の苦境や動揺が、賢治を通して音となり、響きとなって空気を震わせている。そしてその波動は、私たちの耳にも確実に届いた。しっかり受け止めたい。