読書日記
上橋菜穂子『獣の奏者』(講談社)、レイチェル・ウッドワース『わたしのもりをぬけたら』(フレーベル館)、後藤正文編『銀河鉄道の星』(ミシマ社)
新しい世界に向かう人へ
日常的に行っている選書ですが、一番悩むのがどなたかへプレゼントする本。今、わたしの周囲に本を贈りたいと考えている人が三人います。ひとりは、間もなく社会人になるA君。もうひとりは親の海外転勤に伴って日本を離れる中学生のBさん。そして春に小学校高学年になるC君。友人知人の子どもたちのことを親戚のように感じています。これからさまざまな変化にさらされる子どもたちに陰ながらエールを送りたい、そのための本を選んでみたいと思います。
A君には〔1〕上橋菜穂子『獣の奏者』(講談社文庫・全四巻、七三四~九〇七円)。決して慣らしてはいけない生き物を操る術を見つけてしまった少女エリンの宿命とは…。児童文学としても人気を博している本書ですが、大人の方がエリンの置かれた立場の複雑さに共感するかもしれません。自分の仕事を忠実に全うしようとするエリンの前に立ちはだかる現実の壁、彼女を利用しようとする者たち。社会人となるA君も理不尽だったり、納得できないことにぶつかるでしょう。何の問題もない社会はありません。それでも目の前の問題の解決をあきらめないでほしい、という願いを込めて贈ります。
初めての海外生活を前にしたBさんに〔2〕レイチェル・ウッドワース『わたしのもりをぬけたら』(サン・ミャオ絵、華恵訳、フレーベル館・一五一二円)。時々心がムシャクシャ、チクチクすることがある…そんな心の波にのみ込まれそうな時は、自分から飛び出しましょう。その扉へと誘う絵本。Bさんは我慢強い人だと思うのですが、そういう人ほど心に感情を押し込めてしまうから、感情が乱れそうなときは思い切り本の世界へ飛び込んでほしい。ここはどこよりも安全で安心できる場所。そうして心落ち着いたら、また頑張れると思います。
小学校高学年になるC君には〔3〕宮沢賢治原作、後藤正文編『銀河鉄道の星』(牡丹靖佳絵、ミシマ社・一九四四円)を。読書好きなC君は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』『よだかの星』『双子の星』を知っているかもしれない。この本はミュージシャンの編者が宮沢賢治の作品を音楽のリミックスという手法を真似(まね)て、現代風にアレンジした作品。原作の空気感はそのままに、美しいイラストとすべての漢字にルビがつき、読みやすくなっています。この年代に読める本が案外見つからず、本書を見つけて「あった」と喜びました。
生きていく中で、辛く苦しい瞬間は誰しもあります。そんな時は本を開いてください。本は自分から離れるための身近な道具です。ここに紹介した本がお役に立ったら幸いです。
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