妻の母(94歳)が救急搬送された。病院に向かう特急電車の中で開いたのは、佐藤愛子のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(小学館・1320円)。
愛子さんは「ヘトヘトだ」と書いている。そりゃそうでしょう。以前だったら「本当は元気いっぱいなんでしょ」と思っただろう。でも、94歳の義母を見ているので、トシを取ると、ココロはどうあれ、カラダのほうはヘトヘトになると知っている。63歳のぼくもヘトぐらいになっている。
愛子さんは『九十歳。何がめでたい』がベストセラーになり、2017年の年間1位に輝いた。その騒動はさぞかし大変だったろう。ヘトヘトも当然だ。
ヘトヘトな愛子さんの身に、いろんな事件が起きる。心臓の検査ひとつするにも、その朝、桃を食べてしまったために直前で延期になったり、検査機の音声がよく聞き取れず「爆発寸前」になったり。
愛子さんのエッセイは、ちゃんとオチがあって面白い。書斎には大量の書き損じ原稿用紙が散乱しているそうだが、面白くするための努力がすさまじい。
カラダはヘトヘトだが、ココロは元気だ。その秘訣は、言いたいことを言い、書きたいことを書いているからに違いない。
愛子さんは、森喜朗の「女性が多いと会議の進行に時間がかかる」発言とその後の展開についても書いている。なぜ非難されるのか釈然としないと愛子さんは言う。森は思ったことを口にしただけじゃないかと。そして、真珠湾攻撃について「これって騙し討ちやないのん」と言った19歳の時を思い出す。思ったことを言う(書く)のが愛子さんの元気の秘訣なのだ。
本書で愛子さんは断筆宣言している。医者に「書くのをやめたら死にます」と言われたそうだ。死なないために無理やり書くのも情けない、死ぬのが怖いと思われるのはホコリが許さぬ。ホントに死ぬかどうか験してみようじゃないか、というのである。あっぱれ、佐藤愛子。