書評

『身の維新』(亜紀書房)

  • 2024/07/12
身の維新 / 田中 聡
身の維新
  • 著者:田中 聡
  • 出版社:亜紀書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2023-11-22
  • ISBN-10:4750518204
  • ISBN-13:978-4750518206
内容紹介:
《 内田樹さん(思想家・武道家)推薦!》幕末から明治にかけての医学と政治のかかわりを医師たちの肖像を通じて鳥瞰した力作。フーコーの『狂気の歴史』の方法が日本にも定着したことを実感… もっと読む
《 内田樹さん(思想家・武道家)推薦!》
幕末から明治にかけての医学と政治のかかわりを医師たちの肖像を通じて鳥瞰した力作。
フーコーの『狂気の歴史』の方法が日本にも定着したことを実感させる。

 * * *

〈 幕末の動乱のなか、医師たちはその時々の情勢、自らの信じるもののために闘った 〉

[幕府側=漢方][新政府=西洋医学]──そのような単純な対立では語れない。
幕末の和方医、漢方医、蘭方医の群像を描く骨太の歴史ノンフィクション。

---------

日本医学史の書を見ると、江戸時代後期の蘭方医学の歩みに重きを置いて、西洋医学化を「医学の曙」として描いているものが多い。
医学の西洋化をゴールとして、それまでの医学が価値づけられがちだった。
そのような現代人の価値観を前提にして書かれた歴史は、当時の人々が生きていた歴史からはずいぶん遠いものだろう。

 * * *

 ■「古医道」を確立した権田直助は、倒幕の志士となり、岩倉具視のスパイとなった。
 ■浅田宗伯はのちの大正天皇を救ったカリスマ漢方医。明治期も町の人々を無料で治療し続けた。
 ■幕臣・蘭学医・松本良順は、戊辰戦争で負傷者を治療。軍医という概念をはじめて持った人。
 ■西洋医・相良知安は、新政府でドイツ医学を採用させた立役者。最後は易者として貧民街に生きた。

 * * *

人の身体について自由に語ることができた時代。
和方医、漢方医、蘭方医らの身体観・医療観を賭けた闘いは、もう一つの維新史。
医師たちの幕末維新を描いたノンフィクション。明治維新によって漢方から西洋医学(蘭方)へと一夜にして替わった、というような単純なものではない。

幕末の医師たちには、漢方と蘭方のほか、和方(古医道)を唱える医師もいた。漢方伝来以前の日本にあった医療なのだという。つまり、身体や病についての考えかたが違ういろんな医師がいた。それぞれが患者の身に向かい合った。

興味深いのは政治にコミットする医師たちだ。たとえば古医道の復興を目指した権田直助は、討幕運動に身を投じ、維新政府でポストを得る。彼は、漢方や蘭方で治った人はその医学をもたらした国(中国や西洋)を尊ぶようになると憂い、「正しい医道によって、人心が正しく方向づけられ、国家秩序が保たれる」と考えた。もっとも、その後、和方は歴史の彼方(かなた)に消えてしまう。

やがて西洋医学が主流になり、近代的な身体観が常識になる。「医師が向かいあうべき相手は国家となり、人の身は国民の体になった。数えられ、測られる体となった」と著者は記す。現代の医師が向かい合うのは誰の身だろう。
身の維新 / 田中 聡
身の維新
  • 著者:田中 聡
  • 出版社:亜紀書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2023-11-22
  • ISBN-10:4750518204
  • ISBN-13:978-4750518206
内容紹介:
《 内田樹さん(思想家・武道家)推薦!》幕末から明治にかけての医学と政治のかかわりを医師たちの肖像を通じて鳥瞰した力作。フーコーの『狂気の歴史』の方法が日本にも定着したことを実感… もっと読む
《 内田樹さん(思想家・武道家)推薦!》
幕末から明治にかけての医学と政治のかかわりを医師たちの肖像を通じて鳥瞰した力作。
フーコーの『狂気の歴史』の方法が日本にも定着したことを実感させる。

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〈 幕末の動乱のなか、医師たちはその時々の情勢、自らの信じるもののために闘った 〉

[幕府側=漢方][新政府=西洋医学]──そのような単純な対立では語れない。
幕末の和方医、漢方医、蘭方医の群像を描く骨太の歴史ノンフィクション。

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日本医学史の書を見ると、江戸時代後期の蘭方医学の歩みに重きを置いて、西洋医学化を「医学の曙」として描いているものが多い。
医学の西洋化をゴールとして、それまでの医学が価値づけられがちだった。
そのような現代人の価値観を前提にして書かれた歴史は、当時の人々が生きていた歴史からはずいぶん遠いものだろう。

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 ■「古医道」を確立した権田直助は、倒幕の志士となり、岩倉具視のスパイとなった。
 ■浅田宗伯はのちの大正天皇を救ったカリスマ漢方医。明治期も町の人々を無料で治療し続けた。
 ■幕臣・蘭学医・松本良順は、戊辰戦争で負傷者を治療。軍医という概念をはじめて持った人。
 ■西洋医・相良知安は、新政府でドイツ医学を採用させた立役者。最後は易者として貧民街に生きた。

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人の身体について自由に語ることができた時代。
和方医、漢方医、蘭方医らの身体観・医療観を賭けた闘いは、もう一つの維新史。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年2月17日

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