書評
『身の維新』(亜紀書房)
医師たちの幕末維新を描いたノンフィクション。明治維新によって漢方から西洋医学(蘭方)へと一夜にして替わった、というような単純なものではない。
幕末の医師たちには、漢方と蘭方のほか、和方(古医道)を唱える医師もいた。漢方伝来以前の日本にあった医療なのだという。つまり、身体や病についての考えかたが違ういろんな医師がいた。それぞれが患者の身に向かい合った。
興味深いのは政治にコミットする医師たちだ。たとえば古医道の復興を目指した権田直助は、討幕運動に身を投じ、維新政府でポストを得る。彼は、漢方や蘭方で治った人はその医学をもたらした国(中国や西洋)を尊ぶようになると憂い、「正しい医道によって、人心が正しく方向づけられ、国家秩序が保たれる」と考えた。もっとも、その後、和方は歴史の彼方(かなた)に消えてしまう。
やがて西洋医学が主流になり、近代的な身体観が常識になる。「医師が向かいあうべき相手は国家となり、人の身は国民の体になった。数えられ、測られる体となった」と著者は記す。現代の医師が向かい合うのは誰の身だろう。
幕末の医師たちには、漢方と蘭方のほか、和方(古医道)を唱える医師もいた。漢方伝来以前の日本にあった医療なのだという。つまり、身体や病についての考えかたが違ういろんな医師がいた。それぞれが患者の身に向かい合った。
興味深いのは政治にコミットする医師たちだ。たとえば古医道の復興を目指した権田直助は、討幕運動に身を投じ、維新政府でポストを得る。彼は、漢方や蘭方で治った人はその医学をもたらした国(中国や西洋)を尊ぶようになると憂い、「正しい医道によって、人心が正しく方向づけられ、国家秩序が保たれる」と考えた。もっとも、その後、和方は歴史の彼方(かなた)に消えてしまう。
やがて西洋医学が主流になり、近代的な身体観が常識になる。「医師が向かいあうべき相手は国家となり、人の身は国民の体になった。数えられ、測られる体となった」と著者は記す。現代の医師が向かい合うのは誰の身だろう。