書評

『フクロウ 地球上で最も謎めいた鳥の科学』(日経ナショナル ジオグラフィック)

  • 2025/11/30
フクロウ 地球上で最も謎めいた鳥の科学 / ジェニファー・アッカーマン
フクロウ 地球上で最も謎めいた鳥の科学
  • 著者:ジェニファー・アッカーマン
  • 翻訳:鍛原 多恵子
  • 監修:樋口 亜紀
  • 出版社:日経ナショナル ジオグラフィック
  • 装丁:ハードカバー(480ページ)
  • 発売日:2025-09-18
  • ISBN-10:4863136005
  • ISBN-13:978-4863136007
内容紹介:
正面を見つめるまなざしと静かな飛行。フクロウは古代よりあらゆる地域や文化において、知恵、知識、先見の象徴とされてきた。しかし、本当のところ、私たちはフクロウについて何を知っている… もっと読む
正面を見つめるまなざしと静かな飛行。フクロウは古代よりあらゆる地域や文化において、知恵、知識、先見の象徴とされてきた。しかし、本当のところ、私たちはフクロウについて何を知っているのか。現存するフクロウはおよそ260種、南極を除くすべての大陸に生息している。しかし、保護色を持ち、主に夜間に活動する彼らは、他の鳥類と比べて発見も研究も困難だ。人間がフクロウに魅了されてきた歴史は長いが、科学者たちがフクロウの生態を理解し始めたのは、ようやく近年になってからのことなのだ。

稀代のサイエンスライターで、ニューヨーク・タイムズベストセラー作家である著者は、フィールドに出て研究者たちとともに行動し、最新のテクノロジーとツールを用いて、フクロウがいかにして高度かつ繊細なコミュニケーションをとり、狩りをし、求愛し、つがいとなり、子を育て、季節ごとに移動しているのかを本書で明らかにしていく。

日本語版では、監修を務めた国立科学博物館の樋口亜紀氏が、日本におけるフクロウの研究について、またフクロウの輸入大国である日本特有の状況や問題点について解説する。
この謎多き鳥に魅せられた世界中の研究者の不断の努力と、新たな観察ツールと解析技術の発展によって明らかになった驚きの生態、そしてさらに深まる謎。フクロウの生態を通して「知性」とはなにかを問いかける、傑作サイエンス・ノンフィクション。

【目次】
はじめに フクロウの正体
第1章 フクロウを知る――フクロウの謎を究明する
第2章 フクロウを理解する――独特の適応
第3章 フクロウを探す――世界でいちばん謎多き鳥を研究する
第4章 「ホーホー」と鳴くもの――フクロウの会話
第5章 フクロウの繁殖――求愛と子育て
第6章 去るべきか、去らざるべきか――ねぐらと渡り
第7章 捕われのフクロウ――ペットのフクロウから学ぶ
第8章 なかば鳥、なかば精霊――フクロウと人間の想像力
第9章 フクロウが知っていること――フクロウの知恵
おわりに フクロウを救う――愛すべきものを守る
謝辞
日本語版監修者解説
本文図版クレジット
索引
カバー・表紙・トビラページ図版クレジット

聴覚衰え知らず、声に個性、よくしゃべる

著者のアッカーマンは、米国の優れた科学ジャーナリストである。本書もフクロウに関する最新の科学的知見を単に紹介するだけではなく、プロフェッショナル、アマチュアを問わず、研究に関わった研究者たちへのインタビューが丁寧かつ詳細にわたる。そこもいわば「科学的」である。

フクロウはちょっと変わった興味深い鳥で、著者はいう。「フクロウは私たちの人生を変える。彼らの生態や行動を理解しようとする試みは、私たちの世界の見方を広げ、自然に対する驚きや関心をいっそう高めてくれる」。このことはじつはフクロウに限らない。私はそう思う。

自然の生きものに関心を持つと、それがなんであれ、人生にこういう豊かな結果をもたらすことが多い。現代の都市生活では、広い意味の人事、つまり人間のことが関心の対象になりやすい。それは必ずしも良い結果を生まない。

たとえば特定の個人にあまり強い関心を抱くと、ストーカー現象になってしまう。これが野生のフクロウを探すのであれば、追求のしつこさはむしろ研究上の利点になりうる。

それにしてもフクロウというのは面白い生きものである。鳥としてはかなり変わりもので、暗いところが苦手ではなく、夕方から夜間に狩りをする。姿勢は直立し、大きく丸い頭で、けた外れに大きくて正面を向く目がある。前から見たら大きいから、眼球が全体に大きいかというと、むしろ筒状であることが解剖学的に知られている。フクロウにとって重要な感覚は、視覚ではなく聴覚であり、あの大きな平板な顔は顔盤と呼ばれ「顔盤そのものが一種の開口、つまり音の『目』であり、広く開いて多くの音を拾っては耳に向けて反射するのだ」。

読者の皆さんはフクロウの顔について、これまでそう思っておられたであろうか。暗いところにひっそり隠れているフクロウの顔は見られるためではなく、音を聞くためにああなったのである。

「静かで、用心深く、人目につかず、捉えがたい。カムフラージュに長(た)けていて――草のような筋模様、まだら模様、斑点、樹皮のような縞(しま)模様、雪のような白さによって――捕食者または獲物の目をくらます。彼らは周囲と同じような外見で環境に溶け込む」。それがフクロウなのである。

「フクロウの蝸牛(かぎゅう)(という器官)は他種の鳥の3、4倍以上と大きい。このため、メンフクロウ類は非常に鋭敏な聴覚を持つ」「フクロウの聴覚にはもうひとつ哺乳類にはない並外れた点があって、この点は他種の鳥でも同じだ。老いるということがない」。つまり蝸牛内の有毛(ゆうもう)細胞が再生できるのである。

評者自身は米寿なので、かなり耳が聞こえなくなっているはずだが、まだ自覚してはいない。目は非常に悪くなり、右目の視力がとくに悪いので、両眼視ができていない。双眼の実体顕微鏡でいつも虫を見ているが、双眼の意味はない。フクロウの目が両眼ともに前を向いているのは獲物の位置を特定する際の立体視に有利だからだと思われる。私は立体視がほとんどできていない。年齢とともにさまざまな不自由が増えるが、これは当然仕方がないとして素直に受容するしかない。

全九章のうち、第六章は「去るべきか、去らざるべきか」と題され、「ねぐらと渡り」という副題がつけられている。私にはここがいちばん興味深い部分であった。フクロウには多くの種があって、全世界に広がっているから、ねぐらや渡りについて、一般論はできない。それでも本書のこの部分で取り上げられているセルビアの小さな町キキンダのトラフズクの話題には驚いた。写真も載せられているから、読者も納得するであろう。この街には欧州各地からひとりでに多数のトラフズクが集まってしまったのである。

年齢とともに、具体的な生きものに対する関心が強まる。今机の上にある本は『となりのクリハラリス』『記憶するチューリップ、譲りあうヒマワリ』である。抽象的な理屈が嫌いになって、考えが感覚寄りになってくる。抽象的な部分とは、AIで処理できる部分であり、感覚寄りとは私自身が対象から直接に感じることなので、AIが受け付けない部分である。年寄りが頑固になるのは、ここだなあと感じる。感覚は一義的に具体的に決まってしまうので、融通が利かない。国会の論戦などは私には全くの抽象に聞こえるから、聞く気にもならない。

フクロウの鳴き声には、個性もあり、種によってはよくしゃべるので、様々な情報を伝えるらしい。これをAIを介して理解できる時代が来るかもしれない。楽しみなような、聞きたくないような、奇妙な気分に襲われる。いまのところ、年寄りには現在までの状況で十分だという気がしないでもない。
フクロウ 地球上で最も謎めいた鳥の科学 / ジェニファー・アッカーマン
フクロウ 地球上で最も謎めいた鳥の科学
  • 著者:ジェニファー・アッカーマン
  • 翻訳:鍛原 多恵子
  • 監修:樋口 亜紀
  • 出版社:日経ナショナル ジオグラフィック
  • 装丁:ハードカバー(480ページ)
  • 発売日:2025-09-18
  • ISBN-10:4863136005
  • ISBN-13:978-4863136007
内容紹介:
正面を見つめるまなざしと静かな飛行。フクロウは古代よりあらゆる地域や文化において、知恵、知識、先見の象徴とされてきた。しかし、本当のところ、私たちはフクロウについて何を知っている… もっと読む
正面を見つめるまなざしと静かな飛行。フクロウは古代よりあらゆる地域や文化において、知恵、知識、先見の象徴とされてきた。しかし、本当のところ、私たちはフクロウについて何を知っているのか。現存するフクロウはおよそ260種、南極を除くすべての大陸に生息している。しかし、保護色を持ち、主に夜間に活動する彼らは、他の鳥類と比べて発見も研究も困難だ。人間がフクロウに魅了されてきた歴史は長いが、科学者たちがフクロウの生態を理解し始めたのは、ようやく近年になってからのことなのだ。

稀代のサイエンスライターで、ニューヨーク・タイムズベストセラー作家である著者は、フィールドに出て研究者たちとともに行動し、最新のテクノロジーとツールを用いて、フクロウがいかにして高度かつ繊細なコミュニケーションをとり、狩りをし、求愛し、つがいとなり、子を育て、季節ごとに移動しているのかを本書で明らかにしていく。

日本語版では、監修を務めた国立科学博物館の樋口亜紀氏が、日本におけるフクロウの研究について、またフクロウの輸入大国である日本特有の状況や問題点について解説する。
この謎多き鳥に魅せられた世界中の研究者の不断の努力と、新たな観察ツールと解析技術の発展によって明らかになった驚きの生態、そしてさらに深まる謎。フクロウの生態を通して「知性」とはなにかを問いかける、傑作サイエンス・ノンフィクション。

【目次】
はじめに フクロウの正体
第1章 フクロウを知る――フクロウの謎を究明する
第2章 フクロウを理解する――独特の適応
第3章 フクロウを探す――世界でいちばん謎多き鳥を研究する
第4章 「ホーホー」と鳴くもの――フクロウの会話
第5章 フクロウの繁殖――求愛と子育て
第6章 去るべきか、去らざるべきか――ねぐらと渡り
第7章 捕われのフクロウ――ペットのフクロウから学ぶ
第8章 なかば鳥、なかば精霊――フクロウと人間の想像力
第9章 フクロウが知っていること――フクロウの知恵
おわりに フクロウを救う――愛すべきものを守る
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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年11月29日

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