書評

『フクロウの家』(白水社)

  • 2019/03/16
フクロウの家 / トニー・エンジェル
フクロウの家
  • 著者:トニー・エンジェル
  • 翻訳:伊達 淳
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(300ページ)
  • 発売日:2019-02-01
  • ISBN:4560096759
内容紹介:
森に生きる隣人への愛と共感 画家、彫刻家として名高い著者による、フクロウと共に生き、触れ合った日々の記録。2015年度全米アウトドア図書賞を受賞した、フクロウへの愛と共感に満ちた観察エッセイ。 1969年の晩夏、著者一家はワシントン州シアトル郊外に引っ越した。冬になる頃、近くの森にニシ… もっと読む
森に生きる隣人への愛と共感

画家、彫刻家として名高い著者による、フクロウと共に生き、触れ合った日々の記録。2015年度全米アウトドア図書賞を受賞した、フクロウへの愛と共感に満ちた観察エッセイ。
1969年の晩夏、著者一家はワシントン州シアトル郊外に引っ越した。冬になる頃、近くの森にニシアメリカオオコノハズクが生息していることが判明。窓から見える杉の大木に巣箱を取りつけると、一組のつがいがそこを住み処に選んだ。それから一年にわたる観察の日々が始まる(第一章)。
続く第二章では、種としての進化の歴史と生態が手際よくまとめられ、第三章では、人類の文化においてフクロウがいかに想像力を刺激し、多様な形で表現されてきたか、古今東西の文学や美術を中心に展開される。
第四章から第六章は、人間と共生するフクロウ、変わったところに棲むフクロウ、荒野の僻地に棲むフクロウの三つのグループに分け、北米に生息する19種のフクロウの生態を解説する。
どの種にも著者自身の具体的な体験が語られ、科学的に判明した関連事実も整理されつつ、野生生物や自然への深い愛情が感じられる。緻密な観察に基づく美しい挿画を約100点収録。

フクロウへの愛と敬意をもって生活と習性と知恵を克明に記す

フクロウは絵になる鳥である。月光を背に、梢(こずえ)に凝然ととまっている。金色の二つの目玉、三角の尖(とが)った嘴(くちばし)、目のまわりの白い羽毛、翼をたたんだ黒い一点。

古くから英知をあらわす鳥であって、出版社のマークや書店の標識に使われてきた。不吉な予告の鳥とみなされることもあった。ペンダントやお守りとして愛されてきた。たとえ実物は知らなくても、たいていの人はどこかでなじんでいる。

『フクロウの家』は溜め息が出るほど美しいフクロウ本である。五十年あまり前、若い画家・彫刻家夫婦が、アメリカ・ワシントン州シアトル北部の湖と小川と森のほとりに住居を見つけたのが始まりだった。古木に巣箱をとりつけた。サイズ、入り口の大きさ、中の敷き物に注意しているから、フクロウの生態をよく知っていたのだろう。以下、すみついたフクロウの観察の記録にうつっていく。

縄張りの主張、つがいが絆を深める過程、雛(ひな)が生まれると雄も雌も「戦略的に止まり木を選ぶ」ということ。巣箱の両側にとまって護衛する。カラスの群れが襲ってくると、「圧倒的に不利と思われる状況」であろうとも、止まり木から滑空して、群れの中の一羽を攻めたてる。巣離れしたばかりの雛が豪雨にあうと、母フクロウが羽根をひろげて避難場となる。親が狩りをするようすを、若いフクロウがじっと見つめている。

いま述べた一つ一つが、言葉だけでなく、細いペンによる細密画風に絵解きされている。陰影ゆたかなモノクロの世界が、森で演じられるさまざまなシーンをのぞかせてくれる。

「獲物に襲いかかるフクロウの一連の様子」

地上に獲物を見つけると、急降下を始め、何度も羽ばたいて加速し、獲物にぶつかる直前で急ブレーキをかけ、足をのばし、鉤爪(かぎつめ)のある指でワシづかみにする。ふつうなら分解写真によるところだが、ここでは八つの精緻なフクロウの姿で示してある。精密な観察と、腕のいい職人的技術がなくてはできないことだろう。

「フクロウの家」「フクロウのこと」「フクロウとわたしたちの文化」「人間と共生するフクロウ」……。どの章であれ、鳥類学者ではなく、画家・彫刻家の目で追っていく。危険に直面したフクロウは本能的に威嚇するが、おりおり身を隠そうとする。そのときの羽根の広げ方。敵の気をそらすために「傷つき苦しんでいるふり」をするスタイル。

獲物を見つけるにあたって、「獲物の存在を教えてくれるどんな些細な情報でも嗅ぎ分ける能力」。宿敵とにらみ合うフクロウ。サソリが好物のフクロウは先に毒針を取り除き、ついで解体にかかる。つねに動きでもってとらえ、そのなかにフクロウの知恵と勇気と習性を見てとっていく。

フクロウは群れない。あふれるような敬愛につつんだ絵の一つだが、人の手に乗ったチビっ子のニシアメリカオオコノハズクにつけて述べてある。「フクロウの種の多くにとって、未来はわたしたちの責任の引き受け方次第である」

当今、アメリカというとトランプとか獰猛(どうもう)な人物しかいないかのようだが、「天使」を名乗る愛すべきアメリカ人もいるのである。
フクロウの家 / トニー・エンジェル
フクロウの家
  • 著者:トニー・エンジェル
  • 翻訳:伊達 淳
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(300ページ)
  • 発売日:2019-02-01
  • ISBN:4560096759
内容紹介:
森に生きる隣人への愛と共感 画家、彫刻家として名高い著者による、フクロウと共に生き、触れ合った日々の記録。2015年度全米アウトドア図書賞を受賞した、フクロウへの愛と共感に満ちた観察エッセイ。 1969年の晩夏、著者一家はワシントン州シアトル郊外に引っ越した。冬になる頃、近くの森にニシ… もっと読む
森に生きる隣人への愛と共感

画家、彫刻家として名高い著者による、フクロウと共に生き、触れ合った日々の記録。2015年度全米アウトドア図書賞を受賞した、フクロウへの愛と共感に満ちた観察エッセイ。
1969年の晩夏、著者一家はワシントン州シアトル郊外に引っ越した。冬になる頃、近くの森にニシアメリカオオコノハズクが生息していることが判明。窓から見える杉の大木に巣箱を取りつけると、一組のつがいがそこを住み処に選んだ。それから一年にわたる観察の日々が始まる(第一章)。
続く第二章では、種としての進化の歴史と生態が手際よくまとめられ、第三章では、人類の文化においてフクロウがいかに想像力を刺激し、多様な形で表現されてきたか、古今東西の文学や美術を中心に展開される。
第四章から第六章は、人間と共生するフクロウ、変わったところに棲むフクロウ、荒野の僻地に棲むフクロウの三つのグループに分け、北米に生息する19種のフクロウの生態を解説する。
どの種にも著者自身の具体的な体験が語られ、科学的に判明した関連事実も整理されつつ、野生生物や自然への深い愛情が感じられる。緻密な観察に基づく美しい挿画を約100点収録。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年3月17日増大号

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