書評
『となりのクリハラリス: たくましい開拓者から学ぶこと』(東京大学出版会)
身近な移入種のリス、よく見れば
クリハラリスは日本国内の一部(十四都府県十九カ所)で野生化し、繁栄している移入種のリスである。通称はタイワンリス。この名称の問題は本書を読んでいただければよくわかるから、これ以上は触れない。著者はこのリスと人との関係だけではなく、このリス自体がどのように世界をとらえているのか、とくに「リスの視点に立って行動や生態の意味を考えることのおもしろさを紹介できたらと思う」と研究と執筆の動機を語っている。評者自身も野生動物を調べていたことがあるので、この発言はよく理解できる。全体は七つの章に分けられるが、第2章は「リスが見ている色の世界」で、ヒトや霊長類の多くが三色型色覚であるのと異なってリスは哺乳類一般に見られる二色型である。念のためだが、鳥類は四色型である。若いころから私は三色型のヒトが果たして四色型の鳥の視覚を理解できるだろうかと疑ってきたが、答えを得ていない。
第3章は「リスが聞く音の世界」で、クリハラリスは「にぎやかなリス」と評され、実際にさまざまな鳴き方の大声で頻繁に鳴く。著者は鳴き声の録音と分析も行っている。こうした声には繁殖時の同種間の認知もあるし、天敵の出現に対する警戒音もある。第4章は「リスが感じる匂いと味覚の世界」となっている。のちのために備えてリスが餌を埋めるのはよく知られているが、これを探し出すのは、場所の記憶であろうか、匂いの感覚であろうか、といった問題が論じられる。
評者の私は神奈川県鎌倉市生まれで今も住んでいるが、戦後しばらくしてから、クリハラリスをよく見るようになり、庭木の樹間を走り回り、電線上を走って移動する姿を頻繁に見かけるようになった。よく鳴くリスで、さまざまな種類の異なった鳴き方をし、さらに鳴き声も大きいので、うるさく思うことも多い。飼い猫が死んでいなくなるまでは、縁側に来ることはなかったが、いまでは縁側でも庭先の枝の間でも、好きに走り回っている。おそらく私が一生の間に実際に出会った野生哺乳類ではクリハラリスがもっとも数が多いであろう。
こうした動物をどう理解すべきか。そもそも人は他種の動物を「どこまで理解できる」のだろうか。「かつて外国産の得体が知れない動物と思っていたクリハラリスが、気がつけば私たちの生活環境にすっかりなじみ、身近な動物になっている地域さえある。私たちは身近にいる野生動物のことをきちんと見ようとしていない。調べれば調べるほど、野生動物からおもしろい発見がある。人間も野生動物も変化するし、その関係性も変わっていく。そうした現象は見ようとしない者には見えないだろう。それは少しもったいない」。著者は最後にこう述べる。まったく同感というしかない。身近な生き物に関心を持つことは、年老いてくると、本当に良い慰めになる。
私自身も縁側にやってくるタヌキやクリハラリス、はては近所の保護猫まで、関心を持って必要と思えば世話をする。年齢だから何もできないなどと思わずに、外の世界に少しでもかかわろうとする気持ちが大切なのではなかろうか。
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