『パピルスが語る古代都市: ローマ支配下エジプトのギリシア人』(知泉書館)
本村 凌二
クレオパトラの死により紀元1世紀にプトレマイオス朝が滅亡した後,エジプトはローマ帝国の属州となったが,支配層をギリシア人が占めるギリシア世界であった。彼らはエジプトに同化しながらギリシア文化を拠り所とし,文字はギリシア語で記すことを決めたのである。
本書は,オックスフォード大学で古典ギリシア語教授を務めた,オクシリンコス・パピルス解読の第一人者である著者が,大量の出土史料を駆使して,当時の社会と文化を余すことなく描き出す。ギリシア人の目に映るローマ皇帝,ナイル川の氾濫と農作物の収穫,市場での経済活動,現金と穀物を扱う銀行取引,厳しい徴税や徴発の制度,子供の教育に奔走する親,病気や怪我に際して助けを求めた魔術や医学など,人々の息づかいを伝えるとともに,迫害を受けた初期キリスト教のあり方や,古典作品について古典学の視点から光が当てられる。
巻頭カラー口絵と,訳者による各章の懇切な要約も付し,古代世界へと誘う,わが国初登場のパピルス学入門である。
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