ペーパーの語源になるパピルスは、古代エジプトのナイル川流域に生える水草の茎から作られた紙の祖型である。19世紀末、イギリスの探検隊が古代都市オクシリンコスのゴミの山からギリシア語のパピルス文書を発見した。その後も各地でパピルス文書は次々と見出され、文学や聖書の断片、手紙や実務文書などの生活のふくらみが記録されていた。それまで、羊皮紙の写本や碑文などの形でしか残されていなかったから、画期的であった。
それ以後、パピルス学として知られ古代史研究の一翼を担っている。本書の著者は、オックスフォード大学で古典ギリシア語教授を務めていたオクシリンコス・パピルス解読の第一人者。出土した大量のパピルスを駆使して、ヘレニズム期・ローマ帝政期のエジプト社会と文化を余すところなく描き出している。ナイル川の氾濫と農産物、市場の取引、現金と穀物による銀行業務、徴税や徴発の実態、教育にかまける親の姿、病気や怪我で求められた魔術や医学、ローマ皇帝の印象など、そこに生きていた人々の息づかいすらも聞こえてきそうである。まさしくパピルス学入門書。