ギリシア南部から北上すると、見慣れた石灰岩の山肌やまばらなオリーヴ林とはまったく異なる風景を目にする。鬱蒼とした山々、あふれる水源の大河と沃土(よくど)が広がり、異国のようなマケドニアが迫ってくる。この地に、前七世紀半ば、マケドニア王国が建国され、古都アイガイを本拠地として着々と領土を拡げていった。世界史に比類なき足跡を残しながら、どこか暗闇のなかにあったマケドニア王国の全貌が解き明かされる歴史書が出た。
前四世紀半ば、この王国にフィリッポス二世が登場する。隣接するテッサリアに介入、豊かな天然資源と巧妙な外交術を駆使して版図を拡大し、やがて南のペロポネソスに進出した。警戒するアテネとテーベが同盟し、前三三八年、カイロネイアの地が決戦の舞台となった。激しい戦闘の果てマケドニアはギリシア全土を制覇する。「当時のヨーロッパの王たちのなかで最も偉大な王」と讃(たた)えられた王者だが、その野望実現の途上で無残にも暗殺された。遺志を受け継いだアレクサンドロスによる東方遠征、空前の大帝国の実現。最新の研究成果にもとづく歴史書は必読ものだ。