初めてディープインパクトを見たのは、新馬戦後の若駒ステークスだった。後に「飛ぶ」といわれる怒濤の追い込みはひどく衝撃だった。
三十数年前まで競馬後進国だった日本が、二十世紀末、一気に世界の舞台に躍り出た。背景には日本の牧場がアメリカの二冠馬サンデーサイレンスを購入し、その産駒が競馬場で走りだしたことがある。傑出した名馬が次々に登場し、その最高傑作がディープである。無敗の三冠馬、生涯14戦12勝(うちGⅠ・7勝)。
それだけでも輝かしい経歴なのに、ディープの凄さは種牡馬になってからの産駒の成績にもある。国内の数多くのGⅠ優勝馬ばかりか、種付けに来日した欧米の牝馬から海外のGⅠ優勝馬すら出したのだ。種牡馬となったディープは「本当にフレンドリーな馬だ」とも「こんないいやつには、初めて会った」とすら言いたくなるらしい。さらに、昨年には産駒のコントレイルが父同様の無敗の三冠馬になったのだから、衝撃は彼方まで鳴りやまない。
その短すぎた一七年一二七日の生涯。まさしく、神に選ばれ、ファンに愛され、周囲の人々を幸福にした「日本競馬の至宝」なのだ。