新聞の書評欄に学術書はなじまない。しかし、知の最先端を歩む研究の残り香だけでも嗅いでおくのも、ときには悪くない。すでに五〇年以上にわたってローマ史研究の先陣を切ってきた著者の業績は貴重である。
紀元前四世紀以降の「ローマのイタリア支配」と一口に言っても、多くの地方住民は生まれ育った土地で一生を過ごしていたにすぎない。彼らが運よくローマ市民権を得てローマ人になったとしても、土着の伝統に根ざす地元意識との折り合いはどうであったのだろうか。まずもってイタリアの諸民族を服属させ、この半島で帝国にいたる支配を構築しなければならないのだ。そのイタリア支配の要点は「自治都市」と「投票権なき市民権」に求めることができるという立場から、法学史料・文献史料・碑文史料などの詳細を渉猟して、解読・解釈する作業が延々とつづく。
たとえば、市民権の不法取得返還請求法の実態を文献と碑文の断片から復元するのは苦行である。このように史料は限られているが、その経過をたどりながら帝国の原形を浮かび上がらせようとする。「二つの祖国」とは現代にも実感できる迫真さがある。