いかなる分野でも最前線に立つ人にしか見えない情景がある。通り一遍の情報ならネット検索で済んでしまいそうだが、本書を紐解けば、誰が書いたか分からないネット情報との落差が一目瞭然なのだ。
たとえば、「十字軍」の項目を開けば、上梓したばかりの大著『十字軍国家の研究』(名古屋大学出版会)の著者・櫻井康人が十字軍の多面性について整理する。また、「ボナパルティスム(第二帝政)」については、近著『ナポレオン四代』(中公新書)の著者・野村啓介が支配層としての名望家論に注目しながら、その問題点を整理する。さらに、「ファシズム論」をめぐっては、近著『日独伊三国同盟の起源』(講談社選書メチエ)の著者・石田憲が実証研究の深化のなかで、古典・修正主義の解釈を乗り越える試みの論点と難しさを整理する。
このように一三九の項目をとりあげ、第一線の研究者が執筆しているのだから、信頼度は比類ないのだ。しかも、見開き二頁のなかに要領よくまとめられているから、簡潔に要点を理解できる。学生・関連領域研究者ばかりか、歴史愛好家にも、必携!の一冊である。