書評

『明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち』(福音館書店)

  • 2020/02/28
明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち / アラン・グラッツ
明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち
  • 著者:アラン・グラッツ
  • 翻訳:さくまゆみこ
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2019-11-13
  • ISBN-10:4834083853
  • ISBN-13:978-4834083859
内容紹介:
ドイツ、キューバ、シリア。それぞれの故郷を追われた3人の子どもたちの物語が、時を超えて響き合う。
ナチスドイツから逃れるユダヤの少年、カストロ政権下のキューバを出てアメリカに向かう少女、内戦下のシリアからヨーロッパをめざす少年、3人の難民となった子どもたちの運命を描いた新刊『明日をさがす旅 -故郷を追われた子どもたち-』。刊行によせて、紛争や貧困、災害の取材をしてこられたフォトジャーナリストの安田菜津紀さんにエッセイを書いていただきました。同じ世界に生きる人々の苦しみに、なぜ私たちは無関心でいられるのか。厳しくも大切な問いが投げかけられるエッセイです。繰り返される痛みの歴史を絶つために、今、私たちができることを一緒に考えてみませんか。

日本にも続く「難民の道」
安田菜津紀

ナチスの手を逃れドイツからキューバへと渡ろうとしたヨーゼフ、自由を求めキューバからアメリカへ海を越えようとしたイザベル、内戦で国を追われシリアからドイツへと旅を続けるマフムード。それぞれの「物語」の主人公たちは、大人にならざるをえなかった子どもたちだった。危機に瀕し動揺する大人たちを前に、時には彼らに成り代わり、時には彼らの前に立ち、家族を守ろうとする。本来であれば学校に通い、親しい友人たちとふざけ合い、好きな音楽を楽しんでいた世代だろう。

そんな彼らの内面の揺れ動きや、指先の感覚までもが、本書ではとても繊細に描かれている。家族を蔑まれたときに感じた耳まで熱くなるほどの怒り、収容所の苦難がたまりきったかのような大人たちのすえた匂い、心が空洞になってしまったかのように無表情な弟、息もできない猛烈な催涙弾の嵐、海の中で感覚を失っていく手足。犠牲者や難民が「数字」に置き換わってしまうニュースの中だけでは、決して伝えきれない人間の息吹がそこにはあった。

シリアから逃れたマフムードの言葉で、忘れられない言葉がある。船のデッキでお祈りをしている自分たちに、見知らぬ観光客から嫌悪の視線が向けられたときだった。「ぼくたちが、当然の場所(たとえばアレッポの廃墟や難民キャンプのフェンスの中)にいるかぎり、あの人たちは、ぼくたちのことを忘れていられる。でも難民たちが、あの人たちの好まないことをすれば(たとえば、国境をこえてあの人たちの国に入るとか、あの人たちの店の出入り口でねむるとか、あの人たちの車の前に飛び出すとか、あの人たちのフェリーのデッキでお祈りをするとか)、その時は、もう無視することができなくなる。」

子どもたちは時に、身を守るために自分自身の存在を消し、目立たないように努めてきた。まるで自分自身が透明になったかのように。果たして、世界が危機に無関心でいられる理由はそれだけだろうか?

物語の中では、違う時代に生きるはずの子どもたちの人生が、交わる瞬間がある。そう、「難民の道」は時を超えつながっているのだ。そう考えるとこの世界の中で、自分の祖父母や、それよりもっとさかのぼった世代が、避難生活と無関係な人などいないほどだろう。

主人公たちが歩んだ道のりは、私たちが期待するような“ハッピーエンド”ばかりではない。美談でもない。それでも、時には自らを犠牲にして、誰かの明日を守った人々の姿がそこにはあった。こうして誰しもの先祖が、厳しい歴史をかいくぐりながらも、時には誰かの支えを受けて生き延びてきたはずだ。そのつながりを忘れた時に、人々は無関心におぼれ、いざ難民たちの姿が目の前に現れると「排斥」を声高に叫ぶのだろう。

世界の至るところで、今でも絶えず叫び声があがっている。「天井のない監獄」と呼ばれるパレスチナ、虐殺の続くスーダン、アメリカを目指しひたすら人々が歩き続ける中南米の国々から、「ぼくたちを見て」「そして助けて」と声はあがりつづけている。そしてそんな「難民の道」は日本にも続いている。

日本では年間1万人近い人々が難民申請しながらも、認定される率は極めて低い。爆撃や命の危険から逃れてきてもなお、寝る場所を探しさまよった主人公たちのような人々が、今、日本の中に存在しているのだ。ユニセフのような大きな団体だけではなく、日本国内でも多くの団体が、小規模ながらも親身になって難民の人々により添い、支援を続けている。私たちにできることはこうして、身近からも手繰り寄せることができるのではないだろうか。

[書き手]安田菜津紀(やすだ・なつき)
1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。上智大学卒。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)他。TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち / アラン・グラッツ
明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち
  • 著者:アラン・グラッツ
  • 翻訳:さくまゆみこ
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2019-11-13
  • ISBN-10:4834083853
  • ISBN-13:978-4834083859
内容紹介:
ドイツ、キューバ、シリア。それぞれの故郷を追われた3人の子どもたちの物語が、時を超えて響き合う。

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ふくふく本棚 2020年1月29日

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