書評

『戦争がすべてでした -私達小中高生が見た語り継ぐ記憶』(友月書房)

  • 2026/10/02
戦争がすべてでした -私達小中高生が見た語り継ぐ記憶 / 村上 利夫
戦争がすべてでした -私達小中高生が見た語り継ぐ記憶
  • 著者:村上 利夫
  • 出版社:友月書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(112ページ)
  • 発売日:2026-08-15
  • ISBN-10:4877879110
  • ISBN-13:978-4877879112
内容紹介:
同級生とも、戦時中のことを話すことはありませんでした。思い出すのが嫌だったのです。しかし、老い先短くなった今、記録しておこうと思い立ちました。体験したこと、見聴きしたままです。… もっと読む
同級生とも、戦時中のことを話すことはありませんでした。思い出すのが嫌だったのです。しかし、老い先短くなった今、記録しておこうと思い立ちました。
体験したこと、見聴きしたままです。
私達は、戦時下の子供になりきっていました。敗戦と聞いても、受けとめることさえ出来なかったのです。
でも、子供らしい順応性、適応性は備えてもいました。時が経って事実を理解してからは、「戦争は絶対にあってはならない」。平和こそ宝、という思いをつよくしました。

著者が特に今の若い人にも伝えておきたいとの思いで語り継ぐ記憶である。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

「誇れる国」の敗戦後変転、理想はどこに

1930年代はじめ生まれの訃報が続く。先日は岸恵子さん、半藤一利さんは5年前。お二人とも危惧をもたれていた。戦争を知らない世代が道を誤るのではないか。戦争だけはやるものではない。この二人の真剣なまなざしを憶(おも)い出す。

第二次世界大戦から敗戦後の日本で、個人の心は、どのように移り変わったのだろうか。歴史には、大きな世界・国家・社会を単位とするマクロ史もあるが、小さな家族・個人のミクロ史もある。人々が抱いた内面を掘り下げる精神史もある。歴史事件を個人が体験するなかで「あの時はそう思い、こう感じていた」を知るのは実は難しい。個人の良質なミクロ精神史は少ない。

本書は農業改良普及員をふりだしに、地域の世話焼きをして、福井県の小浜市長もやった人の回想である。岸恵子と同じ32年生まれで、青少年期に戦争を経験した。驚くのは政治家もやった人なのに、何かを訴える押しつけがましさが、この回想にはない。ひたすら、その当時、自分はこう思っていた。こう行動した。それが正確かつ客観的に淡々と記されていく。小学校に入る。9歳で出征兵士の壮行会で、つい笑ったら校長に殴られた。兵士の家族には死の覚悟が強いられる厳粛な場だ。校長が激怒したのは当たり前と後年気づく。といった感じである。当時の心は「早く軍人になりたいという気持ちでいっぱいでした」と記す。世界史は学習せず分からず「日本は、世界中でもっとも誇れる国なんだと、それだけはつよく脳裏に」残る状態であったとも。しかし祖父は反戦論。米国の財力・物資に日本は「勝てない」といわれ、神風が吹く、反戦は非国民と反論した。しかし、祖父の言う通り日本は負けた。終戦後、思い出したくないので「ただの一回も」家庭で戦時中の話はしなかったと正直に書く。

本書は終戦後も、子どもたちに戦争の悪影響が及んだ一面を鋭く指摘している。「やけくそ」感が漂い、若者も酒とタバコをはじめた。この悪習のせいでアルコール依存症と癌(がん)で同級生の四分の一がのちに早死にしたという。戦後の荒れた生活が若年層に及び、戦争からおくれての戦争関連死が相当あったのだ。戦後、歌は軍歌から任俠(にんきょう)の歌になり、やくざがブームに。ちゃんと進駐軍からチョコも貰(もら)っている。戦後の民主化で生徒の自主自由の「問題解決学習」が始まり、みなで話し合って学校農場で何をどのように栽培するか決めた。みなで相談して自由に決め部活ができる。これが「何より嬉(うれ)しかった」と回想する。

戦後直後の日本人には、戦時中の反動で、平和と理想社会を本気で目指す空気があったこともわかる。著者・村上少年は弁論会で「世界平和実現への道」の理想を語った。終戦直後の日本人は「心の底から『戦争だけは二度としてはいけない』と思っていた」と、本書では過去形で語られる。

「先の大戦で被害を受けなかった地域、人などどこにも、一人も居なかった」「のど元過ぎて熱さを忘れると言いますが、この歴史的事実をしっかり踏まえることは、大事」と控えめにいってこの本は終わる。日本人は真の戦争を忘れ、理想はとうに語らなくなった。このままではまずい。
戦争がすべてでした -私達小中高生が見た語り継ぐ記憶 / 村上 利夫
戦争がすべてでした -私達小中高生が見た語り継ぐ記憶
  • 著者:村上 利夫
  • 出版社:友月書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(112ページ)
  • 発売日:2026-08-15
  • ISBN-10:4877879110
  • ISBN-13:978-4877879112
内容紹介:
同級生とも、戦時中のことを話すことはありませんでした。思い出すのが嫌だったのです。しかし、老い先短くなった今、記録しておこうと思い立ちました。体験したこと、見聴きしたままです。… もっと読む
同級生とも、戦時中のことを話すことはありませんでした。思い出すのが嫌だったのです。しかし、老い先短くなった今、記録しておこうと思い立ちました。
体験したこと、見聴きしたままです。
私達は、戦時下の子供になりきっていました。敗戦と聞いても、受けとめることさえ出来なかったのです。
でも、子供らしい順応性、適応性は備えてもいました。時が経って事実を理解してからは、「戦争は絶対にあってはならない」。平和こそ宝、という思いをつよくしました。

著者が特に今の若い人にも伝えておきたいとの思いで語り継ぐ記憶である。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年9月26日

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