遊動亭円木 / 辻原 登
遊動亭円木
  • 著者:辻原 登
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(317ページ)
  • 発売日:2004-03-12
  • ISBN-10:4167316072
  • ISBN-13:978-4167316075
内容紹介:
遊動亭円木は落語家だった。真打ち昇進直前に、不養生がたたって盲人となり、以来、妹夫婦が経営するマンションで世話になっている。円木と周りにいるさまざまな人々との日常の時間が、この連… もっと読む
遊動亭円木は落語家だった。真打ち昇進直前に、不養生がたたって盲人となり、以来、妹夫婦が経営するマンションで世話になっている。円木と周りにいるさまざまな人々との日常の時間が、この連作短編にゆっくりと流れている。さしずめ、落語でいうところの長屋ばなしか。
読みすすめながら、地面から数センチほど浮き上がったような感覚にとらわれていることに気づく。思えば前作『翔べ麒麟』もそうだった。非現実感というか、ファンタジーというか、この著者の筆致には、日常を描きながらも、どこか日常から離れていってしまうところがある。

その心地よさに身を委ねていると、こんな円木の独白に出あったりする。パトロンである明楽のだんなから、大相撲の桝席のチケットをもらったくだり、「妹の声にかすかに、その目で相撲がみえるの、という色合いがこもった。あざけりの色か。悪意があったんじゃない。だれにだってそれくらいの底意はある。底意がなければ人間じゃない」。危うく現実離れしそうな物語の尻尾をつかんでいるのは、こうした残酷さだ。そんな残酷さを円木はユーモアでもって受け流す。残酷さとユーモア。あるいは怖さとおかしさ。そのどちらにも物語の色は染まらず、残酷の裏にユーモアが、ユーモアの裏に残酷さが縫いこまれて、彼らの時間がふわふわと過ぎていく。第36回谷崎潤一郎賞受賞。(文月 達)

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