読書日記

酒井順子「3冊の本棚」東京新聞|升田幸三『名人に香車を引いた男-升田幸三自伝』団鬼六『真剣師 小池重明』先崎学『摩訶不思議な棋士の脳』

  • 2018/03/05

人を虜にする将棋

SMもの目当てで団鬼六作品を手に取るうちに、氏の将棋ものも読んでみるとむしろSMものより面白く、そこから将棋本にはまった時期があります。将棋のルールは知らない私にも、将棋本は勝負の興奮を味わわせてくれるのです。

今は藤井4段ブームで、将棋が人気です。しかしスマートな彼と昔の棋士達を比べると、その印象はだいぶ違うもの。たとえば<1>升田幸三『名人に香車を引いた男-升田幸三自伝』(中公文庫・926円)は、大正8(1919)年に生まれ、将棋で身を立てるべく広島の実家を飛び出したのが、今の藤井4段と同じ14歳。その時に書き残したのが「名人に香車を引いて勝つ」。

放浪生活や徴兵を経験しながらも力をつけた升田は、本当に「名人に香車を引いて勝つ」のでした。

升田は、さまざまな事件も巻き起こしています。が、われわれはどこかで「将棋以外はダメ」という人物像を棋士に望んでいて、そんな升田に勝負師の凄(すご)みを感じるのでした。

名人に香車を引いた男―升田幸三自伝  / 升田 幸三
名人に香車を引いた男―升田幸三自伝
  • 著者:升田 幸三
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(356ページ)
  • 発売日:2003-08-01
  • ISBN:412204247X
内容紹介:
「名人に香車を引いて勝つ」と物差しの裏に書き遺して家を出た少年期、広島での放浪生活、大阪の木見八段への入門、終生のライバル大山康晴との出会い、阪田三吉の思い出、宿敵・木村名人との激戦、「陣屋事件」の真相、そして悲願の成就。不世出の将棋名人が自ら語る、波瀾万丈の半生記。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

「将棋以外はダメ」な人の典型例が<2>団鬼六『真剣師 小池重明(じゅうめい)』(幻冬舎アウトロー文庫・617円)。小池重明は実在した真剣師、すなわち金銭を賭けた将棋で稼ぐ人。滅法(めっぽう)強くて、プロもばったばったと斬っていく。…けれど、金と女と酒に極端にだらしなく、プロになれそうなチャンスも逃してしまいます。

酒のせいで、44歳で他界した小池。本で読む分には面白いのですが、近くにいたらさぞ迷惑な人でしょう。しかし将棋に「強い」ということだけが、そんな生き方をも照らすのです。著者は小池を「悪魔」と書きますが、そんな悪魔を生み出した将棋への深い愛が感じられる1冊。

真剣師小池重明  / 団 鬼六
真剣師小池重明
  • 著者:団 鬼六
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(326ページ)
  • 発売日:1997-04-01
  • ISBN:4877284591

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今のプロ棋士は皆、スマートでエリートという印象があります。が、<3>先崎学『摩訶(まか)不思議な棋士の脳』(日本将棋連盟・1,663円)。著者の先崎学9段から漂ってくるのは、昔風の無頼派棋士の残り香。

エッセイの名手としても知られる著者の文章からは、勝負の厳しさが伝わります。日々の生活で勝負をする機会が無い身にとって、勝つ喜び、そして負ける悔しさへの郷愁が湧き上がるのでした。

本書では、団鬼六の素顔も記されていました。生前、「生まれ変われるなら将棋指しになりたいわ」と言っていたという、団。それほどまでに人を虜(とりこ)にする将棋というものを、知りたいような知りたくないような…。

摩訶不思議な棋士の脳 / 先崎 学
摩訶不思議な棋士の脳
  • 著者:先崎 学
  • 出版社:マイナビ出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(224ページ)
  • 発売日:2015-10-24
  • ISBN:4839957339
内容紹介:
プロ棋士・先崎九段が描く痛快将棋エッセイ。面白すぎる70編を収録。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2017年9月

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