読書日記

酒井順子「3冊の本棚」東京新聞|水上勉『雁の寺・越前竹人形』難波功士『人はなぜ<上京>するのか』ほしよりこ『逢沢りく』

  • 2018/03/15

家を離れることの意味

世田谷文学館で、「水上勉のハローワーク 働くことと生きること」という展示を見ました(12月21日まで)。水上勉は、10歳の時、京都の寺に修行僧として入ったことを皮切りに、実にたくさんの職業を経験した人なのです。

水上が寺に入ったのは、自らの意志と言うよりは、口減らしのため。覚悟の“出家”ではなく、仕方なしに若狭の家を出たのです。

その哀切が描かれたのが、「雁(がん)の寺」(<1>『雁の寺・越前竹人形』=新潮文庫・594円=に収録)。この作品で水上は直木賞を受賞しました。

親元を離れなくてはならなかった少年は、京都の寺で心の中にどろりとしたものを溜(た)め込んでいきます。そして最後に起こる、ある事件。家を離れたことが作者にとってどれほど大きな意味を持っていたかを示す一冊です。

水上が若い時代、地方の次・三男は、長男しか田畑を継ぐことができないため、家を出ざるを得ませんでした。対して今の若者は、涙や熱気を伴うことなく、“何気に”上京しているのだそう。

雁の寺・越前竹人形  / 水上 勉
雁の寺・越前竹人形
  • 著者:水上 勉
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(287ページ)
  • 発売日:1969-03-24
  • ISBN:4101141037

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<2>難波功士『人はなぜ<上京>するのか』(日経プレミアシリーズ・918円)は、鴎外・漱石の時代から現代に至るまで、上京してきた日本人たちの理由と心理とを追っています。青雲の志、悲壮感、寂寞(せきばく)。上京には様々(さまざま)な感情が伴いますが、今の若者はサラッとライトに「ジョーキョー」します。その背景にあるのは、情報化や地元志向。この動きが、「地方も元気に」ということにつながっていくのでしょうか。

人はなぜ<上京>するのか  / 難波 功士
人はなぜ<上京>するのか
  • 著者:難波 功士
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 装丁:新書(222ページ)
  • 発売日:2012-01-26
  • ISBN:4532261430
内容紹介:
上昇志向か、漂流なのか、それとも「何気」に?若者たちは何を求めて東京に集まるのか-『坂の上の雲』の時代から、団塊世代の集団就職、ギョーカイ人の時代を経て、『下妻物語』的ジモト志向に至るまで。時代により変遷する上京への社会意識をたどり、人口一極集中の本質を追う、はじめての"上京"論。

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猫村さんでお馴染(なじ)みの、ほしよりこさんが描いた長編コミック<3>『逢沢りく』(上)(下)(文芸春秋・各1,080円)もまた、「家を出る」話なのです。しかしこの物語における家の出方は、従来の出方と全く違います。

主人公である逢沢りくは、中学生。父親には愛人、そして母親との関係は微妙。微妙さがこじれた結果、りくは関西の親戚の家に預けられることになるのです。

関西弁が大嫌いなりくちゃんは、濃厚な関西弁ファミリーのただ中に。現在の都である東京の少女が、かつての都である関西へ、と読むこともできます。りくちゃんは、強烈な拒否反応を示すのですが、さてその先は…?

家を出ると、人は苦しみます。しかし、家を出ることでしか得られないものがあることを、「家を出る」本は示しています。

逢沢りく 上  / ほし よりこ
逢沢りく 上
  • 著者:ほし よりこ
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(221ページ)
  • 発売日:2016-09-02
  • ISBN:4167906953
内容紹介:
簡単に嘘の涙をこぼすことができる十四歳の美少女。悲しみの意味はまだわからない。あたたかな笑いと涙に包まれる感動長篇マンガ。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2015年3月

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