コラム

星野 博美『愚か者、中国をゆく』(光文社)、宇田 賢吉『電車の運転 運転士が語る鉄道のしくみ』(中央公論新社)、辻井 喬・上野 千鶴子『ポスト消費社会のゆくえ』(文藝春秋) ほか

  • 2024/04/13

毎月150冊出る新書からハズレを引かないための 今月読む新書ガイド
(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)

■01『電車の運転 運転士が語る鉄道のしくみ』宇田賢吉・著/中公新書

■02『ポスト消費社会のゆくえ』辻井喬、上野千鶴子・著/文春新書

■03『グーグルに勝つ広告モデル マスメディアは必要か』岡本一郎・著/光文社新書

■04『著作権という魔物』岩戸佐智夫・著/アスキー新書

■05『変貌する民主主義』森政稔・著/ちくま新書

■06『愚か者、中国をゆく』星野博美・著/光文社新書

■07『象徴天皇制と皇位継承』笠原英彦・著/ちくま新書

■08『日本をダメにした10の裁判』チームJ・著/日経プレミアシリーズ

■09『カレーライスの謎 なぜ日本中の食卓が虜になったのか』水野仁輔・著/角川SSC新書

■10『クモの糸の秘密』大﨑茂芳・著/岩波ジュニア新書

今回(5月発売分)の新刊は135冊。日経プレミアシリーズが6点を携え創刊しました。目玉は小泉元首相の『音楽遍歴』ですが、これはパスします(笑)。

①42年間JR(国鉄)で運転士を務めた著者が、電車のしくみと運転の仕方を解説した本です。本当にただそれだけの本で、新人運転手のテキストにそのまま使えそう。しかし、贅肉を削ぎ落とした、わずかなディテールをもおろそかにしない綿密な記述は、実用書といったレベルを超えた不思議な感銘をもたらすでしょう。各章の扉に鉄道をモチーフとした短歌や俳句が掲げられておりどれも面白いのですが、これらを「鉄道文学」というなら、この本もまた文学作品です(通俗な意味ではなく)。
電車の運転―運転士が語る鉄道のしくみ / 宇田 賢吉
電車の運転―運転士が語る鉄道のしくみ
  • 著者:宇田 賢吉
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(272ページ)
  • 発売日:2008-05-01
  • ISBN-10:4121019482
  • ISBN-13:978-4121019486
内容紹介:
時速100キロ以上の速さで数百トンの列車を率いて走行し、時刻通りにホームの定位置にピタリと停める…。このような職人技をもつ運転士は、何を考え、どのように電車を運転しているのだろう。ま… もっと読む
時速100キロ以上の速さで数百トンの列車を率いて走行し、時刻通りにホームの定位置にピタリと停める…。このような職人技をもつ運転士は、何を考え、どのように電車を運転しているのだろう。また、それを支える鉄道の仕組みとはどのようなものだろう。JRの運転士として特急電車から貨物列車まで運転した著者が、電車を動かす複雑精緻なシステムと運転士という仕事をわかりやすく紹介する。

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②セゾングループの社史編纂にもかかわった上野千鶴子を聞き役に迎え、元セゾン総帥・辻井喬(堤清二)が、自らの足跡を振り返りつつ、戦後消費社会と消費社会のこれからについて語った一冊。教養、というとややズレるのですが、元共産党の作家(詩人)にして経営者という複雑な人格が見る消費社会はそれに応じてやや分裂気味なのに(厚みともいえますが)、一方で、ペンネームの「辻井喬」と実業家の「堤清二」がさほど乖離していないあたりが面白い。

ポスト消費社会のゆくえ / 辻井 喬,上野 千鶴子
ポスト消費社会のゆくえ
  • 著者:辻井 喬,上野 千鶴子
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(321ページ)
  • 発売日:2008-05-20
  • ISBN-10:4166606336
  • ISBN-13:978-4166606337
内容紹介:
セゾングループの歩みを振り返ることは日本の戦後消費社会の歴史を考えること-消費社会論の研究者でもある上野千鶴子氏が元グループ総帥・辻井喬(堤清二)氏へのインタビューを通して、ポスト消費社会をどのように再構築していくか、その手がかりを探る。

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③タイトルに「グーグル」とあると「またか」と引いてしまう昨今ですが、ウェブ2.0幻想に食傷した人こそがターゲットでしょう。マスメディアとインターネット(とくにグーグル)、それぞれにおける広告機能の本質的差異を明示し、各メディアの採るべき戦略を浮き彫りにしていきます。殺伐とした理詰めの果てには、マスメディアは民主主義を担保しうる最後の砦、という意外な結論が。

グーグルに勝つ広告モデル~マスメディアは必要か~ / 岡本 一郎
グーグルに勝つ広告モデル~マスメディアは必要か~
  • 著者:岡本 一郎
  • 出版社:光文社
  • 装丁:Kindle版(197ページ)
  • 発売日:2008-05-20

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④ノンフィクション作家による著作権をめぐる冒険です。手放しで「おすすめ!」とは言い難い本なのですが(とくに、インターネット先進ユーザーの会「MiAU」以降)、最近の著作権問題と、重要プレーヤーの見解が概観できるのでピックアップしました。

著作権という魔物 / 岩戸 佐智夫
著作権という魔物
  • 著者:岩戸 佐智夫
  • 出版社:アスキー・メディアワークス
  • 装丁:新書(249ページ)
  • 発売日:2008-05-12
  • ISBN-10:4048700227
  • ISBN-13:978-4048700221
内容紹介:
コンテンツがネット上に溢れだすと同時に、著作権のありかたが問われることとなった。制限すべきは消費者の自由なのか、表現者の権利なのか、「文化」に名を借りた既得権者のふるまいなのか-。本書は、当事者であるJASRAC、民放連、YouTubeのほか、識者たちへの取材を通じ、われわれが取りうる視座を探し求めた記録である。

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⑤陳腐なお題目に成り下がっている「民主主義」。その意義と変遷を現在の目で掘りかえした、ありそうでない主題の一冊です。新自由主義以降の世界、つまり「いまここ」における民主主義の意味を問いなおすという現実味のある着地点を設定しているのですが、議論が難しすぎるのが残念。

変貌する民主主義 / 森 政稔
変貌する民主主義
  • 著者:森 政稔
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(267ページ)
  • 発売日:2008-05-01
  • ISBN-10:4480064249
  • ISBN-13:978-4480064240
内容紹介:
かつて民主主義は、新しい社会の希望であり、人間の生き方を問う理想であったが、いまや、それも色あせ、陳腐なお題目と化している。しかしそれは、単に現実が堕落したためではない。その背後… もっと読む
かつて民主主義は、新しい社会の希望であり、人間の生き方を問う理想であったが、いまや、それも色あせ、陳腐なお題目と化している。しかしそれは、単に現実が堕落したためではない。その背後には、民主主義を支える思想が、社会の深層で大きく変化したという事情があるのだ。本書では、デモクラシーのありようを劇的に変容させた現代の諸問題を、「自由主義」「多数者と少数者」「ナショナリズムとポピュリズム」「主体性のゆらぎ」といった論点から大胆にとらえ返す。複雑な共存のルールへと変貌する姿を鋭く解き明かす試みだ。

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⑥天安門事件の2年前、留学先で知り合った著者とアメリカ人マイケルの、香港からシルクロードへいたる一大鉄道旅行記です。が、記述の大半は汽車の切符のこと。ともかく取れない! なぜこんなに切符がないのか――不合理きわまりない鉄道システムに運ばれる旅をとおし洞察された、まだ市場経済導入以前だった中国の、20年前のリアルな姿。これはちょっと白眉ですね。長く読み継がれるに違いない一冊です。

愚か者、中国をゆく / 星野博美
愚か者、中国をゆく
  • 著者:星野博美
  • 出版社:光文社
  • 装丁:新書(344ページ)
  • 発売日:2008-05-16
  • ISBN-10:4334034535
  • ISBN-13:978-4334034535

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⑦05年に起こった皇位継承問題はまだ記憶に新しいところ。皇統断絶は戦後GHQにより仕掛けられた「時限爆弾」だったのだ、象徴天皇制を守るには皇室典範の改正が急務である! と著者は断言します。システムとして天皇制を捉えた一冊。

象徴天皇制と皇位継承 / 笠原 英彦
象徴天皇制と皇位継承
  • 著者:笠原 英彦
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(215ページ)
  • ISBN-10:4480064176
  • ISBN-13:978-4480064172
内容紹介:
皇位継承のあり方を論じるとき、欠かせない視点がふたつある。ひとつは、現在の天皇制が「象徴天皇制」であること。もうひとつは、現行の皇室典範は、何ら安定的な皇位継承を保証するものでは… もっと読む
皇位継承のあり方を論じるとき、欠かせない視点がふたつある。ひとつは、現在の天皇制が「象徴天皇制」であること。もうひとつは、現行の皇室典範は、何ら安定的な皇位継承を保証するものではないこと。古代より近現代におよぶ天皇制のあり方を歴史的に問い直し、戦後GHQによって皇室制度に仕掛けられた「時限爆弾」の存在を指摘する。今上天皇の体現する象徴天皇制の理念を踏まえ、皇統断絶の危機を回避する道を探る。象徴天皇制の今後を考える上で必読の書。

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⑧映画『それでもボクはやってない』は、冤罪の痴漢が有罪確定してしまう裁判の不条理を描いた秀作でした。本書は不正義を助長している判例10例を分析したもの。裁判といえども絶対に正しいというわけではないのです。

日本をダメにした10の裁判 日経プレミアシリーズ / チームJ
日本をダメにした10の裁判 日経プレミアシリーズ
  • 著者:チームJ
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 装丁:新書(248ページ)
  • 発売日:2008-05-09
  • ISBN-10:4532260043
  • ISBN-13:978-4532260040

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⑨「インド人もびっくり!」というカレー・ルーのCMがありましたが、日本のカレーを食べさせると、本当に、インド人は口を揃えて「うまい!」というのだそうです。そんなスペシャルな日本のカレーの秘密を、歴史を振り返って解き明かします。さらにおいしくする「四種の神器」つき。

カレーライスの謎―なぜ日本中の食卓が虜になったのか / 水野 仁輔
カレーライスの謎―なぜ日本中の食卓が虜になったのか
  • 著者:水野 仁輔
  • 出版社:角川SSコミュニケーションズ
  • 装丁:新書(171ページ)
  • ISBN-10:4827550409
  • ISBN-13:978-4827550405
内容紹介:
1950〜60年代の高度成長期に新しい"おふくろの味"として食卓の主役に踊り出してから、長年にわたって日本人が夢中になり続けている料理、カレーライス。インド料理のカレーとは、似… もっと読む
1950〜60年代の高度成長期に新しい"おふくろの味"として食卓の主役に踊り出してから、長年にわたって日本人が夢中になり続けている料理、カレーライス。インド料理のカレーとは、似て非なるこの"日本料理"は、いったい誰が生み出し、どのように広まっていったのか。カレーの語源、カレー伝来のエピソード、カレールウとレトルトカレーの製造秘話、カレーに含まれる旨み成分の中身など、カレーライスの謎が今明かされる。

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⑩クモの糸にぶら下がる――なぜか人間の本能に訴えかけるこの夢は、いまや実現しているのです。30年間、実現に取り組んできた著者が明かすクモの糸のミステリー。

クモの糸の秘密 / 大崎 茂芳
クモの糸の秘密
  • 著者:大崎 茂芳
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(182ページ)
  • 発売日:2008-05-20
  • ISBN-10:4005005950
  • ISBN-13:978-4005005956
内容紹介:
クモの糸はほんとうに強いのだろうか?クモとクモの糸に注目しつづけてきた著者が、やがてその強さを証明するため、クモとじっくりつきあい、気分よく糸を出してもらいながら、「クモの糸にぶら下がる」という30年来の夢をついに実現。クモの糸の不思議なしくみと、観察することの楽しさをユーモラスに語ります。

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Invitation(終刊) 2008年8月号

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