書評

『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)

  • 2017/09/08
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版]  / 坪田信貴
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版]
  • 著者:坪田信貴
  • 出版社:KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 装丁:文庫(239ページ)
  • 発売日:2015-04-10
  • ISBN-10:4048650955
  • ISBN-13:978-4048650953
内容紹介:
「ダメな人など、いません。ダメな指導者がいるだけです」一人の教師との出会いが、偏差値30のギャルとその家族の運命を変えた。ギャルのおバカ発想に笑い、その熱さに涙する人生が変わる実話。待望の文庫版登場。

塾講師が教える自己啓発

分野を説明しにくい本だ。ひたすら夢(慶応合格)に向かって努力するおバカなギャルの女子高生さやかを、塾講師の目線から描く。ノンフィクションのようだが少し違う。小説のように、講師と女子高生の会話を軸に物語が進行する。受験する女子高生はひたすら勉強に邁進(まいしん)するが、その夢の動機や挫折の詳細には触れられることはない。

受験メソッド本としての要素もある。有用な教科書のガイド、得点力アップの方法に触れられる。また、聖徳太子を「せいとくたこ」と読むような、おバカなギャルの発言語録としてウケている側面もあるだろう。

だが強いて言うなら心理学の本である。巻末に講師である著者が用いた心理学のテクニックの用語解説が付いている。本書の核はここにある。夢の動機や挫折が詳細に描かれないのもそのせいだ。これは、素直なギャルを、自分のメソッドで引き上げる塾講師の物語なのだ。

学校の教師には「絶対無理」と否定された学年ビリの女子高生さやかに、著者の塾講師が慶応合格という夢を与え、彼女を否定することなく、褒めて伸ばすことでその実現を助ける。

そんなふうに読むと、本書は、子どもの夢を信じてあげる大人のすばらしさと、夢を信じれば何でも実現できるという人間の潜在力を謳(うた)う感動的な読み物だ。事実そう読まれているからヒットしているのだろう。

だが、メソッドの活用次第で人は、偏差値40ぶんに相当する他人改造が可能であるということを証明した怖い本でもある。

著者は、学校教育や子どもの夢をつぶす親を批判する。持ち上げるのは、夢を信じて努力すること。洗脳とはいわないが自己啓発。ビジネス分野で蔓延(まんえん)するのはともかく、高校生の受験勉強にまで導入される必要があるだろうか。感動している場合ではないかも。
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版]  / 坪田信貴
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版]
  • 著者:坪田信貴
  • 出版社:KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 装丁:文庫(239ページ)
  • 発売日:2015-04-10
  • ISBN-10:4048650955
  • ISBN-13:978-4048650953
内容紹介:
「ダメな人など、いません。ダメな指導者がいるだけです」一人の教師との出会いが、偏差値30のギャルとその家族の運命を変えた。ギャルのおバカ発想に笑い、その熱さに涙する人生が変わる実話。待望の文庫版登場。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年4月27日

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