交通テクノロジーの変化による未来の社会を、鋭く読み解くノンフィクション
この50年、インターネットを別にすれば、人の生活に大きな変化は訪れなかった。意外にも投資家のピーター・ティールや経済学者のタイラー・コーエンといった技術に明るい予言者たちはそういう見方をする。現代は、停滞の時代であると。さて本書は、交通と輸送のシステムの歴史と、それが刷新されていくだろうという機運についての本である。
自動車は、20世紀の最大のヒット商品であり、今も社会の中心を担う存在だ。本書の主役も自動車である。「モータリゼーション」は、自動車による人間社会の変化を指す言葉だ。人々は自動車をもち、郊外に居住するようになったという話をよく聞くが、本書が目をつけるのは、自動車が生み出した輸送システムである。
例えば、ドミノ・ピザのことをぼくらは「宅配ピザ屋」だと思っている。だが、彼らの本業はピザづくりではない。彼らは、全米に1万以上あるフランチャイズ店舗にドミノ・ピザのピザを供給する。厳密には、原資の調達、製造、輸送がコアな事業。彼らのビジネスの中身は“モノを移動させること”なのだ。
そう考えると、サービス業のスターバックス コーヒーも、調達、輸送がコアな事業だし、iPhoneを作るアップルだって、多数の部品を調達して運送する物流の会社だ。最新の産業に見える彼らも、実は旧態依然とした産業にのっかっているだけなのだ。
この輸送システムがアメリカで確立したのは、1960年代。すでに老朽化が進んでいる。本書が確認するのは、こうした古いインフラが今、どのように変化しようとしているかという部分。
例えば、スマホの普及による移動の変化。ナビ機能により、到着時間や乗り換えガイドが示されることで、クルマでしか移動しなかった口ス市民が、公共交通機関を利用するようになった。このことによる輸送システムへの影響は計り知れない。
本書は、自動車論、交通論、物流論でありながら、なによりもテクノロジー書。停滞の時代は、多分、もう終わりつつある。