書評

『プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか』(英治出版)

  • 2018/04/30
プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか / アレックス・モザド,ニコラス・L・ジョンソン
プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか
  • 著者:アレックス・モザド,ニコラス・L・ジョンソン
  • 翻訳:藤原 朝子
  • 出版社:英治出版
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2018-02-07
  • ISBN-10:4862762492
  • ISBN-13:978-4862762498
内容紹介:
最強ビジネスモデルのすべてを解き明かす。Fecebook、アリババ、Airbnb…人をつなぎ、取引を仲介し、市場を創り出すプラットフォーム企業はなぜ爆発的に成長するのか。あらゆる業界に広がる新たな経済原理を解明し、成功への指針と次なる機会の探し方、デジタルエコノミーの未来を提示する。

現在進む革命のリアルなルポルタージュ

経済および社会に巨大な地殻変動が起きていると言えば「インターネットのこと? いまさら」と鼻白んだ風の返事が返ってくるかもしれない。それに対し著者らは、インターネットだけでは問題の核心に肉薄していないとする。無数の消費者と製造者を結びつけネットワークを構築する「プラットフォーム」こそが伝統的な企業組織や社会の仕組みを破壊し、再編しつつある、と言うのだ。

プラットフォームはインターネットの上で出現した技術ではある。しかしそこに「何を付け加えるか、そぎ落とすか」を理解しなければ成功しない。21世紀に入ってからアップルがiOS、グーグルがアンドロイドを開発して以降、多くのメーカーがアプリを開発、iPhoneやスマートフォンに対応させていった。その結果、2010年頃までは携帯電話の国際的リーダーであったフィンランドのノキアが身売りするはめに陥った。携帯端末としての機能は抜きんでていたものの、対応するアプリが開発されにくい仕組みだったからだ。15年の『フォーブス』誌によれば、世界で資産価値の上位3社を独占、上位20社を見ても11社がプラットフォーム企業に占められている。先頃までインターネットの覇者と目されてきたマイクロソフト社すら、脅威にさらされている。

著者らが属するアプリコ社はスマートフォンのパイオニアであったものの衰退に追いやられたブラックベリーのアプリ開発に携わり、のちにiOSおよびアンドロイドにシフトしている。そうした経験から本書では、「プラットフォーム」の理論的背景、費用構造、競争の様態と独り勝ち現象、成功例とそれを支えた「コア機能」の特徴、ネットワーク構築の困難さと失敗例、将来への期待と分析・紹介している。なかでも豊富に紹介される成功と失敗の事例は、その理由の考察も含め、現場で実感した者にしか書けない生々しさがある。

特筆したいのが、プラットフォームこそが、経済思想家にして反社会主義の闘士であったF・A・ハイエクの市場論を覆すという視点である。ハイエクは計画経済が実行不可能である理由として、巨大化した社会においてはどの財がいかなる状態にあり、どんな理由で需要されるかにかんする情報(ローカルな知識)が、共有されることはないという点を挙げた。共有されうるのは市場における(相対)価格と抽象的なルールだけというのである。これに対して著者らは、ウーバー社ならば、いまある場所でタクシーに乗りたい人に対し近くにいるドライバーをマッチングし配車するアプリを提供している、つまりローカルそのものの情報の交換がモバイル端末とプラットフォームで可能になったと指摘するのである。

これが革命的な変化だということを、私は阪神淡路大震災の折に「パソコン通信」で実感した。神戸に住む家族の安否はNHKテレビの死亡情報によってしか知ることができないと思っていたのだが、ニフティー社の掲示板に「東灘区魚崎○○の松原家はどうなっていますか?」と書き込んだところ、見知らぬ人が「家は倒壊しているが人は避難している模様」と返事してくれたのだ。それ以降、マスメディアの一対無数の情報の流れは、無数対無数に転換していった。ローカル情報の交換という核心をクローズアップし、費用を下げ参加者を厳選して各方面で応用したのが「プラットフォーム革命」だったのだ。本書は現在進行形の革命についてのリアルなルポルタージュである。(藤原朝子訳)
プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか / アレックス・モザド,ニコラス・L・ジョンソン
プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか
  • 著者:アレックス・モザド,ニコラス・L・ジョンソン
  • 翻訳:藤原 朝子
  • 出版社:英治出版
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2018-02-07
  • ISBN-10:4862762492
  • ISBN-13:978-4862762498
内容紹介:
最強ビジネスモデルのすべてを解き明かす。Fecebook、アリババ、Airbnb…人をつなぎ、取引を仲介し、市場を創り出すプラットフォーム企業はなぜ爆発的に成長するのか。あらゆる業界に広がる新たな経済原理を解明し、成功への指針と次なる機会の探し方、デジタルエコノミーの未来を提示する。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2018年4月15日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
松原 隆一郎の書評/解説/選評
ページトップへ