書評
『三毛猫ホームズの夢紀行』(光文社)
34年の歴史、社会を反映
第一作『三毛猫ホームズの推理』の刊行が1978年。今作は、それから34年(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2012年)を経た、通算48作目となるシリーズ最新作だ。34年という歳月には、歴史の重みがある。開始当時は、30歳だった赤川も還暦を過ぎた。筆者が読者として触れたのは28年前、小学校5年生のこと。さわやかな描写とはいえ、男女関係も描く赤川の世界には、それまで読んでいた乱歩の少年シリーズとは違う大人の世界を垣間見る刺激があった。中学生になり、小遣いが増えると新書版を買いそろえた。学校の図書館の外側に連れ出してくれたのは三毛猫ホームズだった。
ずっとファンだったわけではない。ドラマ化されたこともあり、四半世紀ぶりに新作を手にした。時を経ても登場人物たちはあのころのまま。話も相変わらずおもしろい。
刑事なのに血が苦手。高所や女性の恐怖症というダメな主人公の片山。行動派の妹、晴美がいつも事件を解決に導く。
こうした突出したキャラクター設定、リアリズムを少しはみ出しながらも、違和感を持たせることのない文体は、のちのライトノベルの先取りであった。
変化したのは、現代社会の反映という要素が強くなった部分だろうか。主人公たちは年をとらないが、舞台は現代で、携帯電話やパソコンといったアイテムが登場する。ひきこもりの登場人物や恋愛シミュレーションゲームも飛び出し、“ネット社会批判”の視点も垣間見られる。
今も手書きで小説を書くという赤川は保守的かもしれないが、代わりにもうひとりの主人公である猫のホームズは時代の変化にも敏感だ。なんと今作では、デジタルツールを駆使して事件を解決する。残念ながらネタバレの恐れがあるので詳細は控えておくが。
朝日新聞 2012年04月15日
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