コラム

小林 泰三『日本の国宝、最初はこんな色だった』(光文社)、横山 進一『ストラディヴァリウス』(アスキー・メディアワークス)、田口 晃『ウィーン 都市の近代』(岩波書店)ほか

  • 2023/12/10

毎月150冊出る新書からハズレを引かないための  今月読む新書ガイド
(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)

■01『日本の国宝、最初はこんな色だった』小林泰三・著/光文社新書/1,050円(税込)
■02『ストラディヴァリウス』横山進一・著/アスキー新書/890円(税込)
■03『ウィーン 都市の近代』田口晃・著/岩波新書/819円(税込)
■04『テレビと宗教 オウム以後を問い直す』石井研士・著/中公新書ラクレ/882円(税込)
■05『破天 インド仏教徒の頂点に立つ日本人』山際素男・著/光文社新書/1,470円(税込)
■06『岡潔 数学の詩人』高瀬正仁・著/岩波新書/777円(税込)
■07『景気ってなんだろう』岩田規久男・著/ちくまプリマー新書/798円(税込)
■08『石油の支配者』浜田和幸・著/文春新書/767円(税込)
■09『できそこないの男たち』福岡伸一・著/光文社新書/861円(税込)
■10『禁煙バトルロワイヤル』太田光・奥仲哲弥・著/集英社新書/714円(税込)

今月(10月発売分)の新刊は145冊。小学館101新書が8冊を携え新創刊しました。売れ線の無難な著者を揃えた、可もなく不可もないラインナップでした。

①「美術刑事」の異名を持つ著者は、日本美術の復元師です。それもデジタルの。作品をコンピュータに取り込み、失われた部分や色彩を推理して、元の姿を再現する。第一章、東大寺大仏殿の「仕事」を見れば「刑事」と呼ばれる由縁が納得されるでしょう。赤青緑……、眼がチカチカする極彩色で飾られた四天王像は戦隊ドラマのヒーローたちのようで、「こんな色だったのか!」とタイトルどおりの感嘆を漏らすこと必至です。しかし「刑事」の仕事はそれで終わりではないと著者はいいます。そこから「何が見えてくるか」、すなわち、当時どのように愛でられていたのかを「逮捕」することが重要なのだと。納得ですが、文化論が説教くさいのが残念。

日本の国宝、最初はこんな色だった / 小林泰三
日本の国宝、最初はこんな色だった
  • 著者:小林泰三
  • 出版社:光文社
  • 装丁:新書(208ページ)
  • 発売日:2008-10-17
  • ISBN-10:4334034780
  • ISBN-13:978-4334034788

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②ヴァイオリンの代名詞ストラディヴァリウス。この銘器に魅入られ世界的な第一人者にまでなってしまった写真家による本書は、写真はもちろん、評伝あり、研究あり、エッセイありで、何と形容すべきか不思議な味わいです。

ストラディヴァリウス / 横山 進一
ストラディヴァリウス
  • 著者:横山 進一
  • 出版社:アスキー・メディアワークス
  • 装丁:新書(224ページ)
  • 発売日:2008-10-09
  • ISBN-10:404867417X
  • ISBN-13:978-4048674171
内容紹介:
誰よりも艶やかに歌う三〇〇歳のプリマドンナ。「時間」を超えるその価値とは何か?カラー写真多数。いまも解明できないその音色の秘密、ニスの謎、億を超える価格…。多くの人を魅了し、人生を… もっと読む
誰よりも艶やかに歌う三〇〇歳のプリマドンナ。「時間」を超えるその価値とは何か?カラー写真多数。いまも解明できないその音色の秘密、ニスの謎、億を超える価格…。多くの人を魅了し、人生を狂わせもした至高の楽器。パガニーニなど著名な音楽家やヨーロッパ王室との関係など、所有者と名器がたどった数奇な運命とは。そしてアントニオ・ストラディヴァリは何を成し遂げたのか。第一人者による決定版。

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③芸術の都ウィーン。先進的な都市づくりをしてきたことでも知られるこの街については、美しいイメージが流通する一方、その陰にさまざまなイデオロギー闘争があったことはあまり知られていません。夢の都市を築いた市政の現実を詳らかにする珍しい都市論。

ウィーン―都市の近代 / 田口 晃
ウィーン―都市の近代
  • 著者:田口 晃
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(261ページ)
  • 発売日:2008-10-21
  • ISBN-10:4004311527
  • ISBN-13:978-4004311522
内容紹介:
一九世紀半ば以降、リング大通りや上下水道、市営住宅の建設など、先進的な都市づくりを展開してきたウィーン。そこでは自由主義、キリスト教社会主義、社会民主主義の各勢力が対立を引き起こしながら、市政を展開していた。ファシズムによる自治の終焉までの八〇年間の歩みを、住民の暮らしや文化の動向とともに描き出す。

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④江原啓之、細木数子現象を斬る、というとよくあるオカルト批判本のようですが、本書の主題は、テレビというメディアが日本人の宗教観に及ぼしてきた影響を探ること。民放放送規定は宗教の扱いに慎重で、占いや心霊術は本当は放映できないのだとか。実際、宗教団体を扱った番組は皆無にちかいのに、なぜ江原・細木は垂れ流されるのか? この奇妙なネジレに、宗教学者の著者は、今日の「宗教的リアリティ」を見いだします。

テレビと宗教―オウム以後を問い直す / 石井 研士
テレビと宗教―オウム以後を問い直す
  • 著者:石井 研士
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(253ページ)
  • 発売日:2008-10-01
  • ISBN-10:4121502930
  • ISBN-13:978-4121502933
内容紹介:
「無宗教です」と平気で答える日本人。今や、この国の精神文化は荒地と化した。テレビという"制度"のみが文化の礎たる宗教心に接する唯一の場となった我々の、末法的状況への苦き提言。

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⑤信者一億五千万人ともいわれるインド新仏教。その指導者はなんと日本人なのです。佐々井秀嶺は、40年前にインドに渡って以降一度も帰国せず仏教復興運動に従事してきた人物。本書はこの(日本では)知られざるカリスマの評伝小説で、絶版が惜しまれていた書籍の新書化です。内容もすごいが厚さもすごい。新書もここまで来たかの600ページ2段組!

破天 / 山際素男
破天
  • 著者:山際素男
  • 出版社:光文社
  • 装丁:新書(600ページ)
  • 発売日:2008-10-17
  • ISBN-10:4334034772
  • ISBN-13:978-4334034771
内容紹介:
佐々井秀嶺-約四〇年間、一度も日本に帰国せず、灼熱の大地・インドで不可触民解放と仏教振興運動に命を捧げる僧侶がいる。今日、佐々井は全インドにちらばる仏教徒のみならず、その名を全イン… もっと読む
佐々井秀嶺-約四〇年間、一度も日本に帰国せず、灼熱の大地・インドで不可触民解放と仏教振興運動に命を捧げる僧侶がいる。今日、佐々井は全インドにちらばる仏教徒のみならず、その名を全インドに広く知られ、"不可触民解放の父・アンベードカル"の遺志を継ぐ大指導者として、ラジヴ・ガンディー以後、歴代大統領、首相たちで知らぬ者のない"荒法師"である。異国に生き、その他の何百万、何千万という民衆にかくも慕われ、その魂に溶け入った日本人がかつて存在しただろうか?女に悩み、"人間失格者"と自らに烙印を押してきた、悩み尽きない数奇にして波瀾万丈の彼の人生は、日本の民衆とインドの民衆が織りなす壮大なドラマである。

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⑥岡潔は、多変数函数論という前人未踏の地平を独力で切り開いた日本を代表する数学者ですが、その独創性のあまりか、評伝は、同じ著者による大部の著しかありませんでした。「数学の詩人」という副題どおり「数学は情緒」と説く岡の思想と学問を膨大な研究ノートまでひもとき描いた労作。

岡潔―数学の詩人 / 高瀬 正仁
岡潔―数学の詩人
  • 著者:高瀬 正仁
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(228ページ)
  • 発売日:2008-10-21
  • ISBN-10:4004311543
  • ISBN-13:978-4004311546
内容紹介:
岡潔(一九〇一‐七八)は日本が生んだ世界的な数学者であり、心洗われるエッセイ集『春宵十話』の著者としてもよく知られる。独創的な構想を生み、相次ぐ大発見に結実した人生と学問を、遺された研究ノートに追う。二〇世紀の数学に屹立する雄大なスケールの数学者の、秋霜烈日の生涯を描く。

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⑦戦後最長の好景気を記録したといわれた日本経済でしたが、ほとんどの人はまるで実感を持たないうちに後退期に入ってしまいました。それはなぜか? マクロ経済学の第一人者が景気変動のメカニズムを根本から平易に分析していきます。ジュニア新書ながらオトナのアンチョコとしても出色です。

景気ってなんだろう / 岩田 規久男
景気ってなんだろう
  • 著者:岩田 規久男
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(175ページ)
  • 発売日:2008-10-01
  • ISBN-10:448068798X
  • ISBN-13:978-4480687982
内容紹介:
景気が良くなったり悪くなったりするのはなぜなのだろう?アメリカのサブプライムローン問題が、なぜ日本の経済に影響を及ぼすのか?景気は悪いのに、どうして物価が上がるのだろうか?デフレとは?日銀の役割とは?景気変動の疑問点をわかりやすく解説する。

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⑧高騰から一転、現在は下げ止まらない状況が続いている石油価格。この不安定な動きは何を意味しているのか? 暗躍する国富ファンド、埋蔵量データのウソ、ロシア、中国、アフリカで展開する原油争奪戦……。石油「冷戦」の見えざる構造を読み解いた一冊です。

石油の支配者 / 浜田 和幸
石油の支配者
  • 著者:浜田 和幸
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(236ページ)
  • 発売日:2008-10-20
  • ISBN-10:416660662X
  • ISBN-13:978-4166606627
内容紹介:
原油市場で暗躍する投機筋。中国・インドの参入で枯渇する石油資源。激動する資源戦争のなか、果たして日本は生き残れるのか?

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⑨いまどき衒いなく文学するための条件は文学以外の専門を持っていることだと『生物と無生物のあいだ』で教えてくれた著者の最新作です。文学度はさらにアップ。

できそこないの男たち / 福岡 伸一
できそこないの男たち
  • 著者:福岡 伸一
  • 出版社:光文社
  • 装丁:新書(288ページ)
  • 発売日:2008-10-20
  • ISBN-10:4334034748
  • ISBN-13:978-4334034740
内容紹介:
「生命の基本仕様」-それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす"使い走り… もっと読む
「生命の基本仕様」-それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす"使い走り"に過ぎない-。分子生物学が明らかにした、男を男たらしめる「秘密の鍵」。SRY遺伝子の発見をめぐる、研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら「女と男」の「本当の関係」に迫る、あざやかな考察。

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⑩ヘビースモーカーの太田光氏と、彼の主治医で最強の禁煙医師の奥仲哲弥氏によるタバコをめぐる大論争! という売り出しながら、禁煙の説得にはあっさり失敗します(笑)。奥仲医師に禁煙をゴリ押しする気がないのでむべなるかな。嫌煙運動への疑義を共有しながら喫煙と禁煙の望ましい着地点を探っており、タバコ本としては珍しくバランスが良いです。

禁煙バトルロワイヤル / 太田 光,奥仲 哲弥
禁煙バトルロワイヤル
  • 著者:太田 光,奥仲 哲弥
  • 出版社:集英社
  • 装丁:新書(192ページ)
  • 発売日:2008-10-17
  • ISBN-10:4087204634
  • ISBN-13:978-4087204636
内容紹介:
「メシは一日一回しか食わないし、浮気もしないんだから、タバコだけはやめないぞ」とうそぶく、ヘビースモーカーのお笑い芸人太田光と、すべての人にタバコをやめさせたいと、禁煙クリニック… もっと読む
「メシは一日一回しか食わないし、浮気もしないんだから、タバコだけはやめないぞ」とうそぶく、ヘビースモーカーのお笑い芸人太田光と、すべての人にタバコをやめさせたいと、禁煙クリニックも開く最強の禁煙医師奥仲哲弥。喫煙派、禁煙派の両代表による究極バトルのゴングは鳴った!果たして奥仲医師は、太田に禁煙させることができるのか?タバコをやめたい人も、やめたくない人も、タバコを吸わない人も絶対読みたくなる大激論。

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Invitation(終刊) 2009年1月号

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