読書日記

三島 由紀夫『三島由紀夫レター教室』(筑摩書房)、川端 康成,三島 由紀夫『川端康成・三島由紀夫 往復書簡』(新潮社)、梯 久美子『昭和の遺書-55人の魂の記録』(文藝春秋)

  • 2019/04/07

文豪の手紙 こもる実感

エッセーを書くのは温泉の脱衣場で裸になるようなものだけれど、手紙を書くのは誰か一人の前で裸になるような感じ。…であるが故に手紙を書くのは緊張するのだけれど、他人の手紙を読むのは、面白いものです。

文豪はまた手紙の名手であって、その名も<1>『三島由紀夫レター教室』(ちくま文庫・561円)は、五人の人物がやりとりする手紙だけで構成される小説。「処女でないことを打ちあける手紙」「借金の申し込み」「妊娠を知らせる手紙」…。と、書きにくいことが流麗な文章で記される様は、読者にとってまさに「教室」です。同時に、手紙だけで進んでいくストーリーはスリリングかつニヤニヤ笑いが止まらず、三島の「軽み」が楽しめる一冊。

三島由紀夫レター教室 / 三島 由紀夫
三島由紀夫レター教室
  • 著者:三島 由紀夫
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(227ページ)
  • 発売日:1991-12-04
  • ISBN:4480025774
内容紹介:
職業も年齢も異なる5人の登場人物が繰りひろげるさまざまな出来事をすべて手紙形式で表現した異色小説。恋したりフラレたり、金を借りたり断わられたり、あざけり合ったり、憎み合ったりと、もつれた糸がこんがらかって…。山本容子のオシヤレな挿画を添えて、手紙を書くのが苦手なあなたに贈る枠な文例集。

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三島は実生活でも筆まめであったようです。<2>『川端康成・三島由紀夫 往復書簡』(新潮文庫・529円)は、三島が大学生の時に始まり、三島の死の直前まで続く、二人の貴重なやりとりの記録。若き日の三島の筆には、尊敬する師に手紙を書く喜びが溢(あふ)れます。やがて二人は文学と日本のことについて、対等に言葉を投げ合う仲に。互いにとって、またとなく得難い相手であるという実感が、文面から伝わります。

川端のノーベル賞受賞前後の手紙もあれば、三島が次第に死へと近づくにつれ緊張感が高まる手紙も。日本文学史に残る往復書簡なのですが、卑近なことを付け加えるなら三島は、「いただきもの」に対するお礼の書き方が非常に上手(うま)い。本であれ菓子であれ、貰(もら)い物を褒めつつ喜ぶ様を記す筆致に、うっとりと読み惚(ほ)れます。

川端康成・三島由紀夫往復書簡  / 川端 康成,三島 由紀夫
川端康成・三島由紀夫往復書簡
  • 著者:川端 康成,三島 由紀夫
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(254ページ)
  • 発売日:2000-10-30
  • ISBN:410100126X
内容紹介:
東大在学中の三島由紀夫は、処女小説集『花ざかりの森』を川端康成に送り、昭和20年3月8日付の川端の礼状から、二人の親交が始まる。文学的野心を率直に認めてきた三島は、川端のノーベル賞受賞を機に文面も儀礼的になり、昭和45年、衝撃的な自決の4ヶ月前に出された永訣の手紙で終止符を打つ…「小生が怖れるのは死ではなくて、死後の家族の名誉です」恐るべき文学者の魂の対話。

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「やりとり」をするのが手紙であるわけですが、やりとりを前提としない手紙があって、それが遺書です。激動の昭和史の中で、歴史をつくっていった人々が遺(のこ)した遺書や最後の言葉を集めたのが、<3>梯(かけはし)久美子『昭和の遺書-55人の魂の記録』(文春新書・788円)

二・二六事件にかかわった人々、第二次世界大戦で散った人々、三島由紀夫を含め戦後に死んだ人々、そして最後は昭和天皇。…人が最後に遺す言葉には、その人の生き方と価値観とが滲(にじ)み出るのであり、それらの言葉を時系列に読むことによって、昭和という激烈な時代のあり方が響いてきます。そして彼らに言葉を返すとしたら、果たして我々は何を書くのだろうか、と思いは巡るのでした。

昭和の遺書―55人の魂の記録 / 梯 久美子
昭和の遺書―55人の魂の記録
  • 著者:梯 久美子
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(242ページ)
  • 発売日:2009-09-17
  • ISBN:4166607138
内容紹介:
激動の時代を生きた人々は、最期にどんな言葉を遺したのか——。よみがえる昭和が私たちに語りかける、鮮烈な生と死のメッセージ

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2016年4月

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