書評

『川端康成・三島由紀夫往復書簡』(新潮社)

  • 2017/08/07
川端康成・三島由紀夫往復書簡  / 川端 康成,三島 由紀夫
川端康成・三島由紀夫往復書簡
  • 著者:川端 康成,三島 由紀夫
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(254ページ)
  • 発売日:2000-10-30
  • ISBN-10:410100126X
  • ISBN-13:978-4101001265
内容紹介:
東大在学中の三島由紀夫は、処女小説集『花ざかりの森』を川端康成に送り、昭和20年3月8日付の川端の礼状から、二人の親交が始まる。文学的野心を率直に認めてきた三島は、川端のノーベル賞受賞を機に文面も儀礼的になり、昭和45年、衝撃的な自決の4ヶ月前に出された永訣の手紙で終止符を打つ…「小生が怖れるのは死ではなくて、死後の家族の名誉です」恐るべき文学者の魂の対話。
九八年一月某日 正月に読んだ本のなかで『川端康成・三島由紀夫 往復書簡』(新潮社)は興味深く、いろいろなことを考えさせられる作品であった。雑誌「新潮」に掲載された時もそうだったが、三月以上の間があって単行本になってみると、私にはこの往復書簡が読む者に与える感動を混えた痛切さの内容がさらに明確に伝ってくるようであった。

まずはじめに、師と仰いでいた先輩への三島由紀夫の礼儀正しさと心遣いの美事さに驚かされた。しかしその雰囲気はノーベル賞に関連する事柄が二人の間に介在するようになって変りはじめる。礼儀正しさは変らないのだが、三島由紀夫の川端宛書簡から、何か目に見えない香気のようなものが消えてゆくのである。それは、世上勘ぐられているような競争心や嫉妬心とは違う。むしろ、何かを「見てしまった」という気分が三島由紀夫の方に生れたとしか思えない。二人の美意識の相似と差異もこの頃になればはっきりし、しかしお互を認める点では二人とも変らないのだ。本質の違う芸術家同士の関係の困難と緊張と深さをこの書簡集ぐらい正直に語っている例は少いのではないか。これは「君子のまじわり」が持っている輝しさと暗部の開示といってもいいのではないか。

二人と面識のあった私としては、ギリシャと陽明学は川端康成の理解の外にあり、川端流の雪月花への感動は三島由紀夫とは縁がなかったように思う。世代的には川端康成よりは三島由紀夫に近かった私には、彼の歯に衣を着せない川端評を耳にする機会が多かったのである。

そんなことを考えながら、今の作家や詩人はこうした関係を誰かと持っているだろうかと考えざるを得なかった。友人はいる。親しい仲間も多い。しかし私の場合、年齢では私の方が上でも、文学の世界では私より先輩の作家詩人がたくさんいるのだ。それは私にとって一種の不幸かもしれないという気がする。

【この書評が収録されている書籍】
辻井喬書評集 かたわらには、いつも本 / 辻井喬
辻井喬書評集 かたわらには、いつも本
  • 著者:辻井喬
  • 出版社:勉誠出版
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2009-07-21
  • ISBN-10:4585055010
  • ISBN-13:978-4585055013
内容紹介:
作家・辻井喬の読んだ国内外あらゆるジャンルの書籍を紹介する充実のブックガイド。練達の読み手がさそう至福の読書案内。

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川端康成・三島由紀夫往復書簡  / 川端 康成,三島 由紀夫
川端康成・三島由紀夫往復書簡
  • 著者:川端 康成,三島 由紀夫
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(254ページ)
  • 発売日:2000-10-30
  • ISBN-10:410100126X
  • ISBN-13:978-4101001265
内容紹介:
東大在学中の三島由紀夫は、処女小説集『花ざかりの森』を川端康成に送り、昭和20年3月8日付の川端の礼状から、二人の親交が始まる。文学的野心を率直に認めてきた三島は、川端のノーベル賞受賞を機に文面も儀礼的になり、昭和45年、衝撃的な自決の4ヶ月前に出された永訣の手紙で終止符を打つ…「小生が怖れるのは死ではなくて、死後の家族の名誉です」恐るべき文学者の魂の対話。

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初出メディア

週刊読書人

週刊読書人 1998年1月16日

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