書評
『在りし、在らまほしかりし三島由紀夫』(平凡社)
魂の交わりと作品への冷徹な目
現代の最もすぐれた詩人の一人である高橋睦郎がついに、三島由紀夫との交流を一冊にまとめた。文章の他に、講演や対談も収録され、読み応えがある(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2017年)。第2詩集『薔薇の木 にせの恋人たち』刊行後、三島から電話を受けたことをきっかけに交流が始まる。三島は詩集『眠りと犯しと落下と』に跋文(ばつぶん)を寄せる。ときに三島39歳、著者27歳。その晩年のおよそ6年間、身近に接する機会を持った著者にとって三島こそは人生で出会った「最重要の他者」となる。
1970年11月25日の衝撃的な自死事件の2カ月前、著者は銀座の割烹・第二浜作へ呼び出される。そこには三島、そしてともに死ぬことになる森田必勝(まさかつ)がいた。杯を重ね、二人ともすでに酔っている。
「森田はある価値のある男だと思う。そんな森田を誰かに記憶してもらいたいと、ずいぶん考えたが高橋以外にはいないようだ」という意味深な三島の言葉。うながされて森田が語った生い立ちや来歴を、酔いのせいもあって、著者は全く覚えていないという。このときの印象を、少しずつ言葉を変えて著者は繰り返し記す。何度書いても、何度語っても、表し切れない場面なのだろう。
その死から現在に至るまで、著者は三島と作品について考え続けてきた。敬愛や心酔で言葉の目が曇るところはない。著者の文章は必ず、対象への醒めた距離感、冷徹な目を、ごく自然な姿勢として保つ。
三島に詩人の傾向を見て取り、「いわゆる詩というかたちにおいてではなく、散文というかたちではじめて発揚する詩性の持主だったのではないか」と論じる。何を書いても「全部黄金になってしまう」美文の文体。晩年の三島はもっと違う散文を欲していた、と見抜く。「基本的にこの人は国体のために死んだのではなくて、肉体のために死んだと僕は思うのです」。強烈な魂の交わり、その極限に、容赦なく迫る書だ。
朝日新聞 2017年01月29日
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