読書日記
『本屋さんの仕事』『アートの仕事』『グラフィック・デザイナーの仕事』(平凡社)、ササキバラ・ゴウ編『「戦時下」のおたく』(角川書店)ほか
『本屋さんの仕事』(平凡社/一五〇〇円)は、池袋コミュニティ・カレッジでのレクチャー+追加インタビューで構成された一冊。タコシェ、ユトレヒト、古書日月堂、ブックファースト、杉並北尾堂など、さまざまな書店関係者が登場、仕事について語っている。
〝端から端まで本がきれいに並んでいるのを見るときですね(笑)。これから売れていくんだって本がズラーッと揃っている状態を見て、ニヤッ?という(笑)。〟って本好きならわぁ~と夢ひろがる楽しさがあったり、〝生活苦は覚悟しといたほうがいいですね(笑)。〟〝女性でも一年もすると腕がひとまわり太くなるんです。〟など、本屋の厳しさを知ったり。本屋さんになりたい人はもちろんだけど、本好き、本屋好きな人にも読んでほしい。
同じシリーズの『アートの仕事』(平凡社/一八〇〇円)は、会田誠、池松江美、八谷和彦、小谷元彦ほか、アーティストたちが創作という仕事を語る一冊。
発売はちょっと前だけど、さらに同じシリーズの『グラフィック・デザイナーの仕事』(平凡社/一五〇〇円)は、祖父江慎のブック・デザインに対する愛情溢れる話や、クラフト・エヴィング商会の本づくりに関する話など、これまたオススメの一冊。
ササキバラ・ゴウ編『「戦時下」のおたく』(角川書店/一九九五円)は、雑誌「Comic新現実」に掲載された対談、評論などをまとめたもの。その中の「中塚圭骸〈インタビュー〉 おたく・新人類・ナショナリズム」がおもしろい。
以下、どうおもしろいかっていう説明。
香山リカは、繰り返し「弟はこんなことを言っている」という話をする。が、誰も本人を見たことがない。都会で活躍するお姉ちゃんを故郷北海道で影から支える病弱な美少年キャラなんじゃないか……。と思っていた大塚英志の前に現れた男は、予想を大きく外れた強烈なキャラの持ち主だった……。
引用一つめ。
引用ふたつめ。
いくらでも引用したくなるほど、強烈なキャラクターっぷりを披露してくれている弟は、香山リカが小学校三年生ぐらいのときに「どちらかが成功しそうだったら、足を引っ張らずに苦手なジャンルを補って助け合おう」と約束し、影のアドバイザーになっていると語る。「姉ちゃんがいじめられてると興奮するんです」とか、いやもう、フェイクインタビューじゃないのか? と疑いたくなるほどの凄さで、弟から見た姉・香山リカの話、おたく・新人類・ナショナリズムの話が、炸裂してます。
赤木真澄『それは「ポン」から始まった』(アミューズメント通信社/三五〇〇円)は、アーケードゲーム(←ゲームセンターのゲームのこと)業界史本。五〇〇ページ強、読みやすいわけじゃないうえに、一般書店には流通してなくて通販のみ。でも、訴訟や刑事事件などダークサイドの記述もたっぷり、類書のない大労作なので、興味がある人は、ネットで検索してみて。
花井愛子『ときめきイチゴ時代』(講談社文庫/五九〇円)は、一九八〇年代後半、女の子向け文庫ブームの中心人物だった著者の当時の裏話。一番おもしろかったのは、校閲セクションとの戦いから「フツーならありえないところに句読点」を打つあの文体がエスカレートしたってエピソード。「呼びに行って」と書くと、校閲から補助動詞の部分は「ひらく」決まりだから「呼びにいって」に直される。それは嫌だから「呼びに。行って」と、読点を入れたのだ、と。
『反社会学講座』の著者パオロ・マッツァリーノの新刊『反社会学の不埒な研究報告』(二見書房/一四二九円)は、〝学問全体に対し、もっと、わくわく感や愉しさ、笑いを全面に出して一般大衆にアピールせよ、と呼びかけ、またその実践をすることが趣旨〟の知的エンターテインメント(わ、「知的エンターテインメント」って言葉をはじめて使ったよ)。
たとえば、「くよくよのラーメン」の章。一九九四年から二〇〇一年までの朝日新聞記事全文と、一九八八年から二〇〇〇年までに雑誌の見出しに「くよくよ」「クヨクヨ」が登場した回数をまとめてグラフ化し、一九九九年に突如「くよくよ」出現率が大増加することを突き止め、その原因となる書籍を見つけ出し、「くよくよ」と「こだわり」を辞書で調べ、青空文庫で文学作品に「くよくよ」「こだわり」がどのように出現しているか調査し、『美味しんぼ』の「こだわり」用法をチェック……と、調査のぐねぐね道を読むことは、とても楽しい。自分のまわりの出来事を根拠なく全世界にひろげて適用しようとするエセ評論家の書く本の三億倍おもしろいです。
カイパパ編著『ぼくらの発達障害支援法』(ぶどう社/一六〇〇円)は、二〇〇四年に成立した発達障害者支援法に関する本。
自閉症のカイくんの父親「カイパパ」が、インターネットを使って、仲間と出会い、「発達障害者支援法の成立」のために意見書を募集し、一二〇人もの意見書が集まり、それを国会に届け、返事が返ってくる、そういった現実にインパクトを与えていったプロセスを紹介していたり、その意見書の抜粋や、政策立案に関わった福島豊議員へのインタビュー、発達障害者支援法を具体化していくための提案など、たんなる解説書ではなく、当事者の視点で書き記されたものになっている。
漫画。原作・冲方丁、漫画・夢路キリコ『シュヴァリエI』(講談社/五三三円)をオススメ。乙女の血で詩を綴る者を狩る女騎士スフィンクスの活躍を描く大活劇。「…女騎士だと? まさか…キサマが…ソロモンの階段に立つ詩の簒奪者かッ!」「はじめに言葉ありき…」「!」「さぁ…あなたの最後の詩を歌いなさい」なんて台詞が、激しいバトル中に交わされるのである。興奮!
【この読書日記が収録されている書籍】
〝端から端まで本がきれいに並んでいるのを見るときですね(笑)。これから売れていくんだって本がズラーッと揃っている状態を見て、ニヤッ?という(笑)。〟って本好きならわぁ~と夢ひろがる楽しさがあったり、〝生活苦は覚悟しといたほうがいいですね(笑)。〟〝女性でも一年もすると腕がひとまわり太くなるんです。〟など、本屋の厳しさを知ったり。本屋さんになりたい人はもちろんだけど、本好き、本屋好きな人にも読んでほしい。
同じシリーズの『アートの仕事』(平凡社/一八〇〇円)は、会田誠、池松江美、八谷和彦、小谷元彦ほか、アーティストたちが創作という仕事を語る一冊。
発売はちょっと前だけど、さらに同じシリーズの『グラフィック・デザイナーの仕事』(平凡社/一五〇〇円)は、祖父江慎のブック・デザインに対する愛情溢れる話や、クラフト・エヴィング商会の本づくりに関する話など、これまたオススメの一冊。
ササキバラ・ゴウ編『「戦時下」のおたく』(角川書店/一九九五円)は、雑誌「Comic新現実」に掲載された対談、評論などをまとめたもの。その中の「中塚圭骸〈インタビュー〉 おたく・新人類・ナショナリズム」がおもしろい。
以下、どうおもしろいかっていう説明。
香山リカは、繰り返し「弟はこんなことを言っている」という話をする。が、誰も本人を見たことがない。都会で活躍するお姉ちゃんを故郷北海道で影から支える病弱な美少年キャラなんじゃないか……。と思っていた大塚英志の前に現れた男は、予想を大きく外れた強烈なキャラの持ち主だった……。
引用一つめ。
いや、入ってないです。一九九二年ですから、今から一六〇ヶ月くらい前ですね
――何で、「ヶ月」で言う?
八〇年代に起こったこと、何一つ自己消化できてないんですよ。その反省も込めてですね。(……)実家のカレンダーに「昭和七四年」とか書いているのと同じです。
引用ふたつめ。
9・11の後、僕はショックで胃に穴が開いてですね、教授が「どうしてこんな大きな穴が開いたんだ?」って言うから、「ビン・ラディンが捕まって……」って言ったら、「これ、学会で発表していいか?」って。
いくらでも引用したくなるほど、強烈なキャラクターっぷりを披露してくれている弟は、香山リカが小学校三年生ぐらいのときに「どちらかが成功しそうだったら、足を引っ張らずに苦手なジャンルを補って助け合おう」と約束し、影のアドバイザーになっていると語る。「姉ちゃんがいじめられてると興奮するんです」とか、いやもう、フェイクインタビューじゃないのか? と疑いたくなるほどの凄さで、弟から見た姉・香山リカの話、おたく・新人類・ナショナリズムの話が、炸裂してます。
赤木真澄『それは「ポン」から始まった』(アミューズメント通信社/三五〇〇円)は、アーケードゲーム(←ゲームセンターのゲームのこと)業界史本。五〇〇ページ強、読みやすいわけじゃないうえに、一般書店には流通してなくて通販のみ。でも、訴訟や刑事事件などダークサイドの記述もたっぷり、類書のない大労作なので、興味がある人は、ネットで検索してみて。
花井愛子『ときめきイチゴ時代』(講談社文庫/五九〇円)は、一九八〇年代後半、女の子向け文庫ブームの中心人物だった著者の当時の裏話。一番おもしろかったのは、校閲セクションとの戦いから「フツーならありえないところに句読点」を打つあの文体がエスカレートしたってエピソード。「呼びに行って」と書くと、校閲から補助動詞の部分は「ひらく」決まりだから「呼びにいって」に直される。それは嫌だから「呼びに。行って」と、読点を入れたのだ、と。
『反社会学講座』の著者パオロ・マッツァリーノの新刊『反社会学の不埒な研究報告』(二見書房/一四二九円)は、〝学問全体に対し、もっと、わくわく感や愉しさ、笑いを全面に出して一般大衆にアピールせよ、と呼びかけ、またその実践をすることが趣旨〟の知的エンターテインメント(わ、「知的エンターテインメント」って言葉をはじめて使ったよ)。
たとえば、「くよくよのラーメン」の章。一九九四年から二〇〇一年までの朝日新聞記事全文と、一九八八年から二〇〇〇年までに雑誌の見出しに「くよくよ」「クヨクヨ」が登場した回数をまとめてグラフ化し、一九九九年に突如「くよくよ」出現率が大増加することを突き止め、その原因となる書籍を見つけ出し、「くよくよ」と「こだわり」を辞書で調べ、青空文庫で文学作品に「くよくよ」「こだわり」がどのように出現しているか調査し、『美味しんぼ』の「こだわり」用法をチェック……と、調査のぐねぐね道を読むことは、とても楽しい。自分のまわりの出来事を根拠なく全世界にひろげて適用しようとするエセ評論家の書く本の三億倍おもしろいです。
カイパパ編著『ぼくらの発達障害支援法』(ぶどう社/一六〇〇円)は、二〇〇四年に成立した発達障害者支援法に関する本。
自閉症のカイくんの父親「カイパパ」が、インターネットを使って、仲間と出会い、「発達障害者支援法の成立」のために意見書を募集し、一二〇人もの意見書が集まり、それを国会に届け、返事が返ってくる、そういった現実にインパクトを与えていったプロセスを紹介していたり、その意見書の抜粋や、政策立案に関わった福島豊議員へのインタビュー、発達障害者支援法を具体化していくための提案など、たんなる解説書ではなく、当事者の視点で書き記されたものになっている。
漫画。原作・冲方丁、漫画・夢路キリコ『シュヴァリエI』(講談社/五三三円)をオススメ。乙女の血で詩を綴る者を狩る女騎士スフィンクスの活躍を描く大活劇。「…女騎士だと? まさか…キサマが…ソロモンの階段に立つ詩の簒奪者かッ!」「はじめに言葉ありき…」「!」「さぁ…あなたの最後の詩を歌いなさい」なんて台詞が、激しいバトル中に交わされるのである。興奮!
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