百貨店のマネキン、月下のブランコ、屋根裏部屋のピエロと目覚める人形など、作家の神髄が凝縮。眠られぬ読者に贈る、魅惑の中篇!
「月の光線の下、マネキンの隠れた生が目覚めていく。指にかすかな震えが生じる。片方の手首がわずかに曲がる。サングラスの奥で、瞼がゆっくり閉じて開く。」(本文より)
《月の光でお読みください。》
夏の夜更け、アメリカ東海岸の海辺の町、眠らずに過ごす、さまざまな境遇の男女がいる。
何を求めているかもわからず、落ち着かない14歳の少女、ひとつの小説を長年書きつづけている39歳の男、その男を優しく見守る60代の女性、マネキン人形を恋い慕うロマンチストの酔っ払い、仮面を着けて家屋に忍び込む少女たちの一団……ほぼ満月の光に照らされ、町なかをさまよう人びとの軌跡が交叉し、屋根裏部屋の人形たちが目を覚ます……。
ミルハウザーの9作目(1999年発表)にあたるこの中篇小説は、格好の「ミルハウザー入門」といえるだろう。短い章を数多く積み重ねながら、多様な人間模様と情景を緻密に描写することによって、「小宇宙」全体の空気を浮かび上がらせる手法は、作家の得意とするところ。まさに作家の神髄が凝縮された作品で、余韻は深く、心に重く響く。
ミルハウザー初心者の読者には好適であるとともに、熱心なミルハウザー愛好者にも堪能していただける傑作中篇だ。
「訳者あとがき」に柴田元幸氏による「注」を付した。カバー装画は画家の牛尾篤氏。
原題:Enchanted Nightその他の書店
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