【イベントレポート】「ゴミ」つながりの課題本!?~古屋美登里 × 豊崎 由美、呉明益『複眼人』(KADOKAWA)を読む~

  • 2021/09/07
2021年8月の月刊ALLREVIEWS、フィクション部門は古屋美登里さんを迎えて、呉明益『複眼人』を読み解きます。翻訳者の古屋さんが月刊ARに登場するのは2回目で、前回はジェーン・オースティンの『高慢と偏見』を取り上げました。古屋さんの小尾芙佐愛が炸裂した対談でした。
今回は、台湾の小説。英語翻訳者の古屋さんはどのように読み解くのでしょうか。
※対談は2021年8月29日に行われました。
※対談はアーカイブ視聴が可能です。
複眼人 / 呉 明益
複眼人
  • 著者:呉 明益
  • 翻訳:小栗山 智
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2021-04-05
  • ISBN-10:4041063264
  • ISBN-13:978-4041063262
内容紹介:
「こんな小説は読んだことがない。かつて一度も」ル=グィン(ゲド戦記)〈台湾民俗的神話×ディストピア×自然科学×ファンタジー〉時に美しく、時に残酷な、いくつもの生と死が交差する、感動長… もっと読む
「こんな小説は読んだことがない。かつて一度も」ル=グィン(ゲド戦記)

〈台湾民俗的神話×ディストピア×自然科学×ファンタジー〉
時に美しく、時に残酷な、いくつもの生と死が交差する、感動長編。

次男が生きられぬ神話の島から追放された少年。自殺寸前の大学教師の女性と、山に消えた夫と息子。母を、あるいは妻を失った先住民の女と男。事故で山の“心”に触れた技術者と、環境保護を訴える海洋生態学者。傷を負い愛を求める人間たちの運命が、巨大な「ゴミの島」を前に重なり合い、驚嘆と感動の結末へと向かう――。
人間と生物、自然と超自然的存在が交錯する世界を、圧倒的スケールと多元的視点で描く未曾有の物語。

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「ゴミ」つながりの課題本!?~古屋美登里 × 豊崎 由美、呉明益『複眼人』(KADOKAWA)を読む~

時間軸と空間軸を組み合わせた素晴らしい小説

呉明益は『歩道橋の魔術師』、『自転車泥棒』で知られる台湾の作家。1971年生まれで、現代の台湾文学を代表する作家です。課題作『複眼人』は台湾の少数民族の話、台湾に来たデンマーク人、そして架空のワヨワヨ島の話など、複数の話が絡み合った小説。ストーリーは時間と空間を自由自在に動いていきます。

台湾語、デンマーク語、英語、ワヨワヨ語など様々な言語にも配慮した書き方に翻訳者の古屋さんは感心します。古屋さんが気に入った表現がワヨワヨ島に出てくる「掌海師」、「掌地師」という、土地の長老を指す言葉。英語読みの古屋さん英語で何と訳されているかを調べると ”Sea Sage ”、”Earth Sage"だったそうです。この英語の翻訳も素晴らしいと古屋さん。

台湾文学の豊かさを示す小説

豊崎さんは、課題本が、台湾文学の主流にいる呉明益が少数民族の問題を現代小説に落とし込んでいることは台湾文学の豊かさを示していると感銘します。日本にも、アイヌや沖縄の問題はあるけど、それを、現代の小説に落とし込む作品はなかなか出てこない。

また、ワヨワヨ島という架空の設定の細やかさも評価。ワヨワヨ島という「大きな嘘」を成り立たせるためにのディテールの細やかさが生きています。

「ゴミ」で『堆塵館』とつながる

古屋さんはエドワード・ケアリーの翻訳者として知られています。『複眼人』の中で、「ゴミの島」は大きな役割を果たしているのですが、エドワード・ケアリーの『堆塵館』は、まさにゴミで一大財産を築いたアイマンガ―一族の物語。豊崎さんから「ゴミつながり?」と言われましたが、『堆塵館』も面白い小説です。

対談では、豊崎さんの李琴峰さんへの期待と激励、『自転車泥棒』を訳した天野健太郎さんの追悼、古屋さんの倉橋由美子愛など、『複眼人』を軸に話題が縦横無尽に飛んでいきます。課題本の核心に触れる質問が出た時、ネタバレしないように回答するお二人の術もすごいです。そして最後は「飲みに行きたい!」と豊崎さん。「人の作ったものが食べたい!」と古屋さん。コロナが1日も早くおさまりますように!!

対談はアーカイブで堪能できます。

https://peatix.com/event/2889501/view

【記事を書いた人:くるくる(ALL REVIEWS友の会)】

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書評アーカイブサイトALL REVIEWSのファンクラブ。「進みながら強くなる」を合言葉に、右肩下がりの出版業界を「書評を切り口にしてどう盛り上げていけるか」を考えて行動したり(しなかったり)する、ゆるい集まりです。入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。友の会会員同士の交流は、FacebookグループやSlackで、また、Twitter/noteで、会員有志が読書好きにうれしい情報を日々発信しています。友の会会員の立案企画として「書評家と行く書店ツアー」、フランスのコミック<バンド・デシネ>をテーマとしたレアなトークイベントや、関西エリアでの出張イベント等が、続々と実現しています。2020年以降はオンライン配信イベントにより力をいれています。さらに、Twitter文学賞の志を継承した「みんなのつぶやき文学賞」では、友の会会員有志が運営にボランティアとして協力。若手書評家と一緒に賞を作り上げていく過程を楽しみました。2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。ALL REVIEWS友のTwitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai


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