後書き

『ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方―』(青土社)

  • 2021/03/24
ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方― / リーズル・クラーク,レベッカ・ロックフェラー
ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方―
  • 著者:リーズル・クラーク,レベッカ・ロックフェラー
  • 翻訳:服部 雄一郎
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(250ページ)
  • 発売日:2021-02-25
  • ISBN-10:4791773438
  • ISBN-13:978-4791773435
内容紹介:
コロナ時代だからこそ求められる、読むだけで簡単に始められる、地球とお財布にも優しい「新しい生活様式」がここに!

世界に広がる買わないプロジェクト!持続可能な世界をつくりるために私たちにできることとは?

ギフトエコノミーとは、お金による売買や取引ではなく、無償での「贈与」や「分かち合い」によって、モノやサービスが循環する枠組みを意味します。

およそすべてがお金でやり取りされる現代、「贈与や分かち合いによる経済」などと言うと、「非現実的な理想論」のように感じる人もいるかもしれません。でも、かつての人間社会にはギフトエコノミー的要素がもっともっとあふれ、長きにわたって経済の重要な一部を占めていたわけです。それが貨幣経済/市場経済の肥大化・絶対化とともに、すっかり影の薄い周辺的な存在に成り下がってしまったのは、わりに最近のこと。

鶴見済さんの『0円で生きる』の冒頭にこんな言葉があります。

地球上にある物はもとよりすべてが共有物だった。人々はそれを分け合い、あげたりお返ししたりして暮らしてきた。その私有化を推し進めた最大の勢力は資本主義であり、ここ二世紀ほどはその全盛期だった。(中略)お金がすべての社会になったのは、ほんの数百年前のこと。それまでの人類史のほとんどの期間、人は必要なものを分け合ったり、あげたり、力を合わせたりしながら生きてきたのだ。はるか遠い昔のことではないのだから、取り戻せないはずがない

今は、誕生日プレゼントも、クリスマスプレゼントも、お歳暮も、お礼も、「なんでもお金で買って済ませる」時代です。つまり、「贈与」さえ、お金なしでは成り立たなくなっている。以前、「お金がないと生きられない動物は人間だけ」という言葉にハッとしたことがありますが、本書はまさにそうした現状を問い直し、より本来的な生のあり方について考えさせてくれる刺激的な1冊だと思います。

幸せいっぱいのおすそわけ文化

ギフトエコノミー的なゆたかさの断片は、今も田舎にはあふれています。わが家は高知県の山のふもとに移住して6年。日々、高知のおすそわけ文化を満喫しています。

家に帰ってくると、玄関に野菜の入った袋がゴロリと転がっているのは日常茶飯事。ある時はご近所さんから釣った魚をいただいたり、はちみつのしたたる蜂の巣をバケツ入りでいただいたり。はたまた、ゆずや柿や梅や枇杷やプラムを「うちはもう採ったから、裏の木から好きなだけ勝手に採っていいよ」と声をかけていただいたり――。

通りがかりの川で、アユ釣りの様子を子どもたちと眺めていたら、見ず知らずの方から「ほれ、アユ」と20尾ものアユをプレゼントされ、家族一同歓喜したこともあります。自宅の新築の工事現場でも、大工さんが「もやしをどうぞ」、基礎屋さんが「アユをどうぞ」、建具屋さんが軽トラに立派な白菜を20玉も乗せてきて、「放置畑の白菜、食べ切れんから、全部持ってって~」。

南国気質もあってか、高知のみなさんはつくづく、「ゆずる」ことに慣れていらっしゃる。すごくおおらかで、たのしげで、開放的。何の躊躇もなく気軽にゆずる様子は、まさに本書に書かれているシェアリングの世界そのものです。

こちらもつられて、焼いたお菓子を配り歩いたり、たっぷりある作物をおすそ分けしたり、できる範囲でお返ししますが、とてもとても追いつきません(それほど圧倒的な量をいただくのです)。そこはもう、「天からの贈り物!」と思うことにして、今の自分たちができることを、「ペイフォワード」の精神で、できる範囲で“世界に返していく”ことを意識しています。

おすそわけに彩られる高知での暮らし。受け取っているのは、言うまでもなく「モノ」以上のものです。もちろん、モノそのものもありがたいけれど、そこにあるのは、単に「モノが手に入った」を遥かに凌駕する何か。人々の笑顔、言葉、思い。「善意の世界につながらせてもらっている」という安心感。お金とはまったく別種のたしかな価値やゆたかさを、やはりギフトエコノミー的おすそわけ文化は私たちに与えてくれていると感じます。

「買わない」から広がるゆたかさ

言うまでもないことですが、おすそわけの「時」や「内容」は自分では選べません。常に、「いただいた時」が、「その時」。突如、家にゆずが山ほど、立派な石鯛が1尾、大根が5本、というような事態が勃発します。「ちょっと今日は仕事が・・・」などと思っても、生鮮食品は待ってくれない。何とか算段をつけて、ひとつひとつの“恵み”に向き合うことになります。

この「予期せぬ事態に呑み込まれる」感じは、都会的な感覚からすれば、ともすると「困ったこと」なのかもしれません。でも、こういう「自分の外側からやってくる流れ」こそが、ある意味いちばん「生きている手ごたえ」というか、「生かされている実感」のようなものを自分に与えてくれているような気もします。すべてを自分ひとりで思い通りにコントロールしていたら、自分が人とのつながりの中で生きていることや、大いなる自然の中で生かされているという事実が、ともすると希薄になってしまう。「時の流れに身を任せる」からこそのゆたかさも、わが家は高知のおすそわけ文化から教えてもらっています。

おすそわけ文化を十全に生きるひとつの秘訣は、日ごろからモノを買いすぎないこと。十二分にモノを買いそろえていたら、外からの恵みが入る余地がなくなってしまうし、庭の収穫のありがたさも減ってしまうので、ふだんの買い物は「少なめ」に限ります。

そんな日々の中、わが家はますます「あるものを生かしきる力」が向上してきました。おすそわけいただいたものをどれだけ生かせるか。そして、それ以外の日々を、どれだけ少ない食材でやりくりできるかーー。

本当はアップルクランブルが食べたいけど、せっかく柿があるのだから、柿のクランブルを焼いてみようかな?
キムチを仕込むためだけにアミやイカの塩辛を買いたくないから、冷蔵庫にある自家製ナンプラーを入れてみようかな?
マーマレードにする柑橘皮を茹でこぼした液、洗剤代わりに使えるらしいから、捨てずに使ってみようかな?

――そんなひとつひとつのやりくりや工夫から、わが家の暮らしはどんどん「自分色」に染まっていきます。それは生活のたのしさそのものでもあるし、自分ならではの人生を生きるよろこびでもあるし、日々の健全な充実感でもある。そこにあるのは、スーパーでよりどりみどりの商品から好きなものを選んで買ってきたのでは到底得られない、「わが家だけのぜいたく」です。

井出留美さんの著書『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)にも、本書にも通じる様々な「あるものを生かしきる」ヒントが綴られていますが、その中で感じるのも、やはり「たのしさ」。安易に買い物に頼らず、あるものに向き合うことをたのしめればたのしめるほど、幸せはぐっと身近な存在になっていきそうな気がします。

今日から取り入れたい「買わない暮らし」

そんなギフトエコノミー的なゆたかさを、現代の暮らしの中にどんどん呼び戻していくことを提案する本書。全世界100万人を超える「買わないプロジェクト」はまだ日本にはほとんど広まっていませんが、同じような趣旨のフェイスブックグループは既に日本各地に存在しています。コラムで紹介した以外にもたくさんのグループがありますので、ぜひアンテナを延ばして、近隣のグループを発見してみてください。

「近くにグループがない」「自分で新しく立ち上げるのもむずかしい」という方々は、まずは気軽にSNSの個人アカウントから不用品やほしいものを投稿してみるだけでも、思いがけない展開が待っているかもしれません。

わが家は数年前、「自動車をください」という友人のフェイスブック投稿を見て、処分を検討していた軽ワゴンをゆずり、まるで恩人のように感謝されたことがあります。ちょうど普通車への買い替えを決め、車屋さんから「その軽ワゴンはもう廃車にするしかないですね」と言われ、「本当はまだまだ使えそうだったのに…」と残念に思っていたタイミングだったのです。友人がフェイスブックで発信してくれなかったら、まずありえなかったうれしい結末。SNSはギフトエコノミーの推進にうってつけの媒体です。ぜひ多くの方にうまく活用していただきたいな、と思います(もちろん、市役所や児童館の昔ながらの「ゆずり合い掲示板」もお忘れなく!)。

かつては過酷な環境を生き延びるための必然だったギフトエコノミー。今、市場経済の中で、地球環境を守るために、そして、より人間的な感覚を暮らしに呼び戻すために、より重層的な意味を私たちに投げかけてくれているように思います。読者のみなさんひとりひとりが、それぞれのやり方で、本書のヒントを生かしきってくださったら、こんなにうれしいことはありません。

[書き手] 服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)
ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方― / リーズル・クラーク,レベッカ・ロックフェラー
ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方―
  • 著者:リーズル・クラーク,レベッカ・ロックフェラー
  • 翻訳:服部 雄一郎
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(250ページ)
  • 発売日:2021-02-25
  • ISBN-10:4791773438
  • ISBN-13:978-4791773435
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