そして、この30年、政治の中枢にいたのが保守政党とされる自民党です。なかでも保守派の領袖としてもてはやされ、長期政権を築いたのが安倍晋三元首相。保守とは真逆の売国政策を巧みに推し進め、日本の国力、日本という国の精神性を徹底的に破壊してきました。
しかし、そんな安倍氏を熱狂的に支持したのが国民です。VUCA(不確実な時代)といわれる現代にあって、変化に対する懐疑の目を持つ保守思想を正しく理解しないことには、今後も同じ過ちを繰り返します。
本書では、本物の保守思想を理解するうえで欠かせないたった一つの重要なことを作家の適菜収さんが伝えます。保守思想を語るうえで欠かせない思想家、名著を題材に入門書として最適な1冊になっています。
数値化・合理化・均等化の時代に抗う 「保守思想」を理解するたった一つの方法
「使い古されたこと」を繰り返す大切さ
本書(『「保守思想」大全 名著に学ぶ本質』)の目的は過去の保守思想の仕事を独自の新しい視点で捉え直すことではありません。代表的な保守思想家の言葉を引用し、言い古された説明を繰り返すことです。私は「言い古されたこと」を繰り返すことが大事だと思っています。言い古されたことは、大事なことだから言い古されているのですから。
私が普段やっている仕事も同じです。それは「新しいもの」をなるべく書かないように注意しながら、古今東西の賢者の知恵を右から左へ書き写す作業です。
詩人、小説家、自然科学者、化学者、政治家、法律家のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはこう言いました。
「それから、真理というものはたえず反復して取り上げられねばならないのだ。誤謬(ごびゅう)が、私たちのまわりで、たえず語られているからだ」(エッカーマン『ゲーテとの対話』)
誤謬は私たちのまわりで、たえず語られています。
現在、近代の負の側面が大衆社会という形で暴走しているように見えますが、「保守」という言葉の定義も完全に混乱しています。今では、新自由主義者、右翼、単なる反共、権力に阿おもねる乞食言論人、情弱のネトウヨ、卑劣なヘイトスピーカー、デマゴーグ、反日カルト、陰謀論者といった保守の対極にある連中が、白昼堂々と「保守」を自称しています。
結果、わが国では「保守=バカ」という等式が成り立つようになりました。
しかし、これから本書で述べる通り、保守とは、近代理念の暴走を警戒する知的で誠実な態度のことです。
近代の正確な理解がないところに保守は成り立ちません。
また、近代を成立させる原理であるナショナリズムですら、わが国ではほとんど理解されていない。
こうした状況は極めて危ないと思っていたところ、「月刊日本」編集部から、引用をメインにした保守思想の解説をしてほしいというオファーがありました。本書はその成果です。
本書は引用だらけです。
引用がメインで、私の説明はサブです。なるべく余計な言葉はつけ加えないようにしました。
「近代」「大衆」「全体主義」「ナショナリズム」「歴史」といった章見出しはあくまで便宜上の分類です。すべて保守思想と密接に関係しています。
自由主義者であるエドマンド・バークが、あえて「保守主義」を唱えたのは、フランス革命という狂気に直面したからです。裏金問題などもあり、清和会の権勢が落ちたとはいえ、わが国が正常化したとは到底思えないような状況です。われわれもまた正気を維持するために保守思想を振り返らなければならない時代に直面しています。
[書き手]適菜収