面白いアイデアが生まれても、事業化を進める過程でそのアイデアが丸くなってしまう……。
こんな悩みを抱えたことはありませんか?
独自性のある尖ったアイデアを売れるプロダクトに仕上げることは、簡単ではありません。
優れたビジネスアイデアを生み出すのは、何か必要なのか? その悩みにこたえるのが、ビジネスデザイナーの今井裕平氏。100万個超を売るウェアラブルメモ「wemo」、売上300%アップの「羽田空港ショップ」をはじめ数々のヒットビジネスを手掛けるビジネスデザイナー今井氏が編み出した、才能・感性・センス不要の発想法とは? 「カンブリア宮殿」出演でも注目。今回は特別に初の著書『すごいアイデア』より「はじめに」を全文公開してお届けします。
才能・感性・センス不要!商品開発の救世主による「尖らせて売る」ビジネスアイデアの発想法
すごいアイデアとは
「すごいアイデア」と聞いて、あなたはどのような内容を思い浮かべただろうか。何か画期的なアイデアや天才的なひらめきが生まれる方法論が書かれた本を想像したかもしれない。
本書で言う「すごい」はそのようなことではない。
ビジネスをつくる際、新しいアイデアが求められるのは言うまでもない。求められるのは「おもしろい」「ユニークである」「尖っている」といった、他にはない独自性である。しかし、本書の対象であるビジネス領域では、それだけでは済まされない。これらの独自性に加えて、「売れる」「儲かる」「事業化できる」といった市場性のあるアイデアが求められる。
通常、独自性が強いと、仮に目立ったとしても「売れない」と思われがちだ。独自性の強い商品・サービスは作り手の自己満足にすぎない、儲かる商品をつくるには、ユニークさやかっこよさなどに蓋をするものだ、と。事実、「こんな尖った、ニッチなもの、誰が買うんだ?」と会議で却下された経験もあるだろう。このように多くの場合、独自性と市場性は二律背反的に捉えられている。「尖りすぎると売れない」という思い込みが、私たちのアイデアづくりを妨げているのだ。
独自性と市場性がトレードオフの関係にあることは否定しない。しかし、実のところこの2つは両立できる。もっと言うと両立させるものである。両立ができれば、あなたのアイデアは無双モードに突入する。他者のアイデアと似ることも、上司に潰されることも、会議での無難な空気に負けることもない。実現まで漕ぎつければ、ヒットに導くことも、業界をざわつかせることも、社会にインパクトを与えることもできる。「尖っていて売れる」つまり、独自性と市場性が両立しているアイデアこそが、本書が目指す「すごいアイデア」である。
アイデアには「公式」がある
本書は新たな商品やサービスを企画・開発するビジネスパーソンのために、アイデアづくりの根幹を解説するものである。特徴は、アイデアのつくり方を「公式」にした点だ。無駄な要素を削ぎ落として、身につければ誰でも使うことができることを意図している。公式と言っても数字や記号を用いた数式ではない。一目瞭然で理解できるように、単純化して図示することにこだわった。もしよければ、これ以降の頁をざっとのぞいてみてほしい。その図を眺めるだけでも、本書の要点が理解できるはずだ。本書を著した背景を理解してもらうために、簡単に自己紹介させてほしい。
私の夢は建築家であった。建築学科のある大学に進学し、大学院も含めると6年間建築漬けの日々を送った。好きな勉強を好きなだけ学ぶことができる学生生活は、人生で最も幸せを感じた時間のひとつだった。その一方で残酷な現実も待ち受けていた。それは、絵が壊滅的に下手であったことだ。
卒業後は、幸運にも建築設計事務所に勤めることができた。しかし、このままでは分が悪いことを身を以って体験し、建築家を諦め、経営コンサルタントの道に進んだ。絵が下手であることを克服するより、私の長所であるアイデアで勝負しようとしたのだ。
その後紆余曲折があり、現在はkenmaというデザイン会社を起業し、ビジネスデザイナーという肩書で仕事をしている。日々求められるのは、クライアントが思いつかない一点突破のビジネスアイデア。そこで私の武器となっているのが、本書の公式である。
駆け出しの時期は、自身の勘や感覚に頼って発想していたため、アイデアの質に大きなバラツキがあった。スムーズに発想できるときはよいが、できないときは生活に支障をきたすほどだった。この状態から抜け出すためには、再現性のある方法の模索が不可欠であった。めざしたのは、単純かつ再現性のある方法。10年にわたって少しずつ確立し、ようやく体系化することができたのが本書の内容である。
この方法は、才能や感性、センスを問わない。むしろ、発想に自信がない人にこそ、向いている方法かもしれない。アイデアづくりに悶絶しているあなたの救世主になることができれば幸いである。
[書き手]今井裕平