読書日記

野阿梓『ソドムの林檎』、川又千秋『反在士の指環』、上遠野浩平『わたしは虚夢を月に聴く』ほか

  • 2018/12/23

日本SF史上最強のヒロイン、姉川孤悲のかっこよさに降参!

川又千秋『反在士の指環』(徳間デュアル文庫)★★★のカバーを見て愕然とした中年SF読者は多いんじゃないかと思う。これは、著者の初期代表作『反在士の鏡』に単行本未収録の短篇二篇と新作エピローグを加えた《反在士》シリーズ完全版。『反在士の鏡』と言えば、オレの中では七〇年代日本SFの最先端だったのに、超人ロックみたいなこのカバーイラストはいったいなに? 責任者出てこい!

しかし、二十年ぶりに再読してさらに愕然としたのは、このイラストが正しかったこと。燃えるオレンジの髪をなびかせた美少年、その名はライオン。ふ〜ん、こいつが反在士だったのね。キャラなんかすっかり忘れてたよ。鮮烈に覚えてるのは、純粋鏡面を通過する超光速航法アリス・ドライブとか、銀河をゲーム盤に見立てて果てなき戦争を続ける〈紅后〉と〈白王〉とか。ところが、いざ現物を読み返してみると、きらびやかでかっこいいイメージと裏腹に、ディテールはろくすっぽ書かれていない。今の目で見ると、これって〝アイデアとイメージは抜群だけどキャラ立ちとプロットが弱いライトノベル系スペースオペラ〟だよね。しかし逆に考えると、『反在士の鏡』が七〇年代日本SFの最先端だったんなら、昔から日本SFのカッティングエッジはライトノベルだということになる。

反在士の指環 / 川又 千秋
反在士の指環
  • 著者:川又 千秋
  • 出版社:徳間書店
  • 装丁:単行本(357ページ)
  • ISBN:419905068X

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実際、デュアル文庫からこれと同時に出た上遠野浩平の新作『わたしは虚夢を月に聴く』★★★☆は、『反在士の鏡』の直系の子孫。虚空牙、相克渦動励振原理、虚空間力場などなどの造語群で想像力を刺激する(が詳しい説明は与えない)手法や、現実/虚構の反転というモチーフは、『反在士』的な文系本格SFのそれと見事に重なる。というか、今の中高生読者は、高校生だったオレが『反在士』にハマったように上遠野浩平にハマり、めくるめくセンス・オブ・ワンダーを味わっているのかも。発表から二十年が経過した『反在士』は、今はもうあまりかっこよく見えないが、その〝かっこよさ〟の精神はライトノベルSFの最先端に受け継がれている。

わたしは虚夢を月に聴く / 上遠野 浩平
わたしは虚夢を月に聴く
  • 著者:上遠野 浩平
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(256ページ)
  • 発売日:2012-11-09
  • ISBN:4061389408
内容紹介:
探偵の荘矢夏美が受けた、依頼人自身が"その人の名前も姿もほとんど思い出せない-"という奇妙な"人探し"。正体不明の「誰か」を探すうち、夏美は今いる世界の真実に目醒めていく…。月を跳ねるウサギ型のロボット。人智を超えた"敵"。冷凍保存された英雄。「鉄仮面」と呼ばれる超兵器-。嘘のような現実が月にあり、現実のような嘘が地球にある。これは、虚ろな夢の物語。上遠野浩平が描く青春SFの金字塔、"ナイトウォッチ"シリーズ第二弾。

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もっとも、こうした〝かっこいいSF〟が、今やライトノベルの専売特許なのかと言えばそんなことはない。〝革命的武装小説集〟と銘打つ野阿梓久々のSF作品集『ソドムの林檎』(早川書房)★★★★がその証拠。『花狩人』以来、SFのかっこよさを追求しつづけてきた野阿梓は、SFの神もかっこよさの神も細部に宿ることを十二分に承知している。SFマガジンに三回分載された表題作は、『バベルの薫り』の前日譚にあたるが(姉川孤悲(こい)がジョージクと知り合う話)、とりあえずそれは忘れていい。特務機関きっての凄腕サイキック・エージェントが大暴れするスーパーヒロイン小説として、冒険小説ファンや活劇ファンにも推奨したい一大エンターテインメントなのである。凝りに凝ったSF的な設定は巧妙に背景化されて〝かっこよさ〟のオーラを放つ舞台装置となり、その華麗なステージ上でSF史上最強最高のヒロイン、姉川〝ワン・ウーマン・アーミイ〟孤悲が爆裂する。月面都市ケプラーの実力者から依頼を受け、誘拐された少年の奪還任務に月へとやってきた姉川孤悲。恐るべき実力で太陽系内にその名を轟かせるマホロバ機関に法律の足枷はない。中国マフィアを脅しつけ、警察署を粉砕し、単身、敵の本拠地に乗り込んでの大立ち回り。最後は『マトリックス』ばりの空中格闘技まで披露する。このかっこよさに張り合えるのは映画版「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリー様ぐらいか。「それはどうかな」には心底しびれたね。ロシア語、ヴェトナム語、中国語が乱れ飛ぶ無国籍ぶりは最近のアジアン・ノワール流だが、こちらはあくまでも痛快。キャラ立ちとSF的ディテールが完璧にマッチした傑作だ。

ソドムの林檎 / 野阿 梓
ソドムの林檎
  • 著者:野阿 梓
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(281ページ)
  • ISBN:4152083670

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話が前後しますが、前述『わたしは虚夢…』と相互リンクする《ブギーポップ》シリーズも、最新刊の『ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト』(電撃文庫)★★★☆が出ている。こちらは、心ならずもボニー&クライドみたいな犯罪者カップルとなった十代の男女を主役に、ブギーポップ世界の枠組みで巻き込まれ型クライムノベルを語る試み。なにを持ってきてもスマートに処理してしまう上遠野浩平のセンスに脱帽。

ブギ-ポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト / 上遠野 浩平
ブギ-ポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト
  • 著者:上遠野 浩平
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:文庫(296ページ)
  • 発売日:2001-09-07
  • ISBN:4048676563

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一方、若木未生の新シリーズ第一弾『メタルバード1』(徳間デュアル文庫)★★★は、ちょっとオールドファッションドなハインライン流ミリタリー・スペースオペラの枠組みにいまどきのライトノベル・キャラを接合する。主役は、傲岸不遜を絵に描いたような天才航宙士レイアード(榎木津系)+そのお目付役のカイトの幼なじみコンビ。三部作になるようですが、まずは快調なスタートだ。

メタルバード〈1〉さあ、どこへ飛びたいか? / 若木 未生
メタルバード〈1〉さあ、どこへ飛びたいか?
  • 著者:若木 未生
  • 出版社:徳間書店
  • 装丁:単行本(193ページ)
  • ISBN:4199050728

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ここまでキャラが暴走しちゃうとついていけないという保守的SF読者には、岡本賢一の《傭兵グランド》シリーズがおすすめ。第三巻『クレイジー・ウォー』(ソノラマ文庫)★★☆では、宿敵リマンズがいい味出してます。きっちりSFネタを用意する義理堅さもこの著者らしいが、オレはもっと突き抜けたほうが好きだな。

クレイジー・ウォー ) / 岡本 賢一
クレイジー・ウォー )
  • 著者:岡本 賢一
  • 出版社:朝日ソノラマ
  • 装丁:文庫(266ページ)
  • ISBN:4257769408

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〝新本格SF〟と帯に大書された津村巧のメフィスト賞受賞作『DOOMSDAY』(講談社ノベルス)★★は、『ファントム』meets『宇宙戦争』というか、読後感はむしろキング/クーンツ型の八○年代モダンホラーに近い。筆力はあるものの、中盤はさすがにダレる。古き良き設定を現代に甦らせるって意味では確かに〝新本格〟かもしれないが、これは(SFネタが)時代を遡り過ぎ。

DOOMSDAY―審判の夜 / 津村 巧
DOOMSDAY―審判の夜
  • 著者:津村 巧
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(508ページ)
  • ISBN:4061821997

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その反面、SFアイテムが一切登場しなくても強くSF性を感じさせる小説もある。たとえば、どことも知れぬ世界で誰とも知れぬ敵と戦う操縦士を描く森博嗣『スカイ・クロラ』(中央公論新社)★★★★は、オレ的には森版『戦闘妖精・雪風』。世界の成り立ちの謎が核になる話はやっぱりSFでしょう。

スカイ・クロラ / 森 博嗣
スカイ・クロラ
  • 著者:森 博嗣
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(333ページ)
  • 発売日:2004-10-01
  • ISBN:4122044286

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その意味で今月いちばん仰天した傑作が、小川勝己の第三長篇『眩暈を愛して夢を見よ』(新潮社→角川文庫)★★★★☆。『葬列』『彼岸の奴隷』に続いて、まさかこんな小説を書くとはなあ。九九パーセントまでミステリ(というか新本格)なので、詳述はしませんが、一部ミステリ読者が怒り狂いそうな結末で思いきり感動するSF読者はけっこう多いと思う。そうじゃなくても、「愛はブーメラン」に反応する人は必読。ってそれはネタバレ?

眩暈を愛して夢を見よ / 小川 勝己
眩暈を愛して夢を見よ
  • 著者:小川 勝己
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 装丁:文庫(532ページ)
  • 発売日:2010-04-24
  • ISBN:4043706049
内容紹介:
大学卒業後、AV制作会社に就職した須山隆治は、撮影現場で高校時代の憧れの先輩・柏木美南と再会してしまう。その後、会社が倒産し、アルバイトをして日々を送る須山だったが、美南が失踪したと聞き、彼女の行方を追い始める。調査が進むにつれ明らかになる美南の悲惨な過去。同時に彼女の過去に関わる人物が次々と殺されていく。やがて事件は一応の解決を見せるが…。横溝賞受賞作家が放つ驚天動地の大傑作ミステリ。

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初出メディア

本の雑誌

本の雑誌 2001年11月号

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