読書日記

樹木 希林『いつも心に樹木希林』(キネマ旬報社)、原 武史+三浦 しをん『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』(角川書店)ほか

  • 2019/04/07
◆『いつも心に樹木希林 ~ひとりの役者の咲きざま、死にざま』(キネマ旬報社/税別1000円)
昨年9月に逝去して半年、生前の声や生きかたに共感し、称揚する出版物が続々と出ている。稀有な例だろう。『いつも心に樹木希林』は、インタビュー、対談、エッセー、関係者の追憶などで構成。「発掘」された原稿も。

芸能人の役割について「この世での役は、死に目に出会わなくなった世の人びとに、己の死にざまをお見せすることかもしれません」と、39歳で書いている。同調圧力になびかず、終始一貫「個」を貫いた人だった。

「万引き家族」の監督として濃密な時間を一緒に過ごした是枝裕和の弔辞。亡くなった日は、是枝の母の命日と同じだったという。さまざまなエピソードとともに「希林さん、私と、出会ってくれて、ありがとうございました」の挨拶(あいさつ)に、万感の思いがこもる。

1997年、本誌『サンデー毎日』に全5回で本人のイラスト入りのエッセーを連載していた。これも初耳。まことに天晴れな人生が、この一冊で通覧できる。

いつも心に樹木希林~ひとりの役者の咲きざま、死にざま~ / 樹木希林
いつも心に樹木希林~ひとりの役者の咲きざま、死にざま~
  • 著者:樹木希林
  • 出版社:キネマ旬報社
  • 装丁:ムック(192ページ)
  • 発売日:2019-02-25
  • ISBN-10:4873768586
  • ISBN-13:978-4873768588
内容紹介:
昨年9月に亡くなられた俳優・樹木希林さんの一生を、本人の文章や語りから辿ります。また親交のあった方々からの新録も多数収録。

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◆『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』原武史、三浦しをん・著(角川書店/税別1500円)

原武史三浦しをん。天皇史を中心とした政治学と鉄学のスペシャリストと、『舟を編む』ほかでご存じの人気作家。異色の組み合わせがうまくハマって、対談集『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』ができ上がった。

原は三浦の小説もちゃんと読んできて、本人も気づかぬ鉄道史的背景を指摘する。過剰な「鉄オタ」ぶりに呆れつつ、しっかり食いついていく三浦も偉い。宮中女官の世界を描く松本清張作品『神々の乱心』をめぐる丁々発止のやりとりが前半の白眉か。

対談第4回は、2人で東武特急に乗って鬼怒川温泉への遠足旅。「いいなあ」「楽しそう」と三浦の素朴な感想に、東武にコンパートメント車両がある由来を瞬く間に解説してしまう原。すさまじい「鉄」分の血を感じる。絶妙の、いいコンビなのだ。

話題になった映画「シン・ゴジラ」も、原に言わせれば「鉄道的には見るところがなかった」と一刀両断。いやあ、徹底してるわ。

皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。 / 原 武史,三浦 しをん
皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。
  • 著者:原 武史,三浦 しをん
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2019-02-27
  • ISBN-10:4041076684
  • ISBN-13:978-4041076682
内容紹介:
鉄学者と作家、平成の終わりに皇室、小説をアツーく語り合う。

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◆『世界怪奇残酷実話 浴槽の花嫁』牧逸馬・著(河出書房新社/税別1750円)

『世界怪奇残酷実話 浴槽の花嫁』の著者・牧逸馬を知らなくても、『丹下左膳』の林不忘は知っているだろう。同一人物で、ほかに谷譲次の筆名も持つ流行作家。若き日の滞米生活で収集した資料をもとに書いたのが、本書ほか一連の「実話」もの。「浴槽の花嫁」は、浴槽で新婚夫婦の妻が次々と溺死する事件を扱う。夫はいつも「スミス」(変名)で、金目当ての犯罪だった。ほか「女肉を料理する男」「都会の類人猿」「肉屋に化けた人鬼」と、タイトルからして恐怖に満ちている。

世界怪奇残酷実話: 浴槽の花嫁 / 牧 逸馬
世界怪奇残酷実話: 浴槽の花嫁
  • 著者:牧 逸馬
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(273ページ)
  • 発売日:2018-11-27
  • ISBN-10:4309027571
  • ISBN-13:978-4309027579
内容紹介:
切り裂きジャック、チャアリイは何処にいる、都会の類人猿、ウンベルト夫人の遺産、浴槽の花嫁、マタハリ、肉屋に化けた人鬼、海妖。

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◆『明夫と良二』/庄野潤三・著(講談社文芸文庫/税別1800円)

徹底して家族を描き続けた庄野潤三。「山の上の家」と名付けられた主(あるじ)なき家は、昨年より早春と秋の2回、読者に開放されることとなった。今年2月には、日本全国から300人もの読者が集い、皆すぐに親しくなり、さながら知己のようだったという。読者を迎えるのが長男・龍也さん。本書『明夫と良二』の「明夫」のモデルだ。子ども向けに書かれた小説だが、いつも通りの筆致で、移ろいやすい家族の日々が描かれる。名作『夕べの雲』の一家は、作品と残された家で生き続けているのだ。

明夫と良二 / 庄野 潤三
明夫と良二
  • 著者:庄野 潤三
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(320ページ)
  • 発売日:2019-02-09
  • ISBN-10:4065147220
  • ISBN-13:978-4065147221
内容紹介:
磊落な浪人生の明夫と心優しい中学生の良二。作家一家の日常を通じ、刻々と過ぎ去っていく幸福な家族の時間を結晶させた庄野文学の粋

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◆『平成の東京12の貌(かお)』文藝春秋/編(文春新書/税別980円)

文藝春秋編『平成の東京12の貌(かお)』は、高山文彦、稲泉連、服部文祥、野村進など一級の書き手が、「東京人の光と闇に迫る」。「保育園反対を叫ぶ人たち」(森健)、「東大を女子が敬遠する理由」(松本博文)、「将棋の聖地に通う男たちの青春」(北野新太)と、いずれも切り口がいい。自然や大地から遠ざかる、超高層の「タワマン」を取材した高山は、そこには「便利と安全が備わっている。でも大いなるものを人間から遮断し、奪っていはしないか」と突きつける。さようなら、平成。

平成の東京 12の貌 /
平成の東京 12の貌
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(317ページ)
  • 発売日:2019-01-18
  • ISBN-10:4166612034
  • ISBN-13:978-4166612031
内容紹介:
街が変われば人も変わる。急増する外国人、社会に不寛容な高齢者、子供を虐待する親……。現代の東京人の姿を十二人の筆者が描く。

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サンデー毎日 2019年3月31日増大号

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