『僕はマゼランと旅した』(白水社)
豊崎 由美
前作から実に14年を経て発表された本書は、まさに質量共に『シカゴ育ち』をはるかに凌駕した、息をのむ傑作である。前作と同じくシカゴの裏町を舞台に、「歌」に始まり「ジユ・ルヴィアン」で締めくくられる11の短篇からなるが、これはもう連作短篇という枠を超えたひとつの神話的小宇宙と言っていいだろう。
いくつかの作品では著者自身を思わせる語り手の「僕」と弟のミックが重要な役割を果たすが、2人を取り巻く登場人物たちの個性が実に魅力的である。彼らはある短篇では脇役として現れ、別の短篇では主役として登場する。たとえば「歌」に出てくるレフティ叔父さんは、幼い「僕」を酒場から酒場へ連れ回して歌を歌わせるアル中気味の元ジャズマンとして簡単に紹介されるだけだが、「マイナームード」という短篇では彼の少年時代が回想され、最後の短篇では高校生になった「僕」は彼の葬儀から帰る途中だ。このように、人も物(ルートビア、開かれた消火栓etc.)も、そして町も、すべてが様々な状況で繰り返し登場し、その幾たびもの出現によって深い意味を帯びる。ダイベックの語りの技は冴えわたり、読む者は時に可笑しく、時に辛く、そして言いようもなく懐かしい世界に激しく引き込まれる。
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