人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか: 拡大する世界と〈地〉の物語 / 清川 祥恵
人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか: 拡大する世界と〈地〉の物語
  • 著者:清川 祥恵
  • 出版社:文学通信
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2022-09-09
  • ISBN-10:4909658858
  • ISBN-13:978-4909658852
内容紹介:
神話は、社会に生きる一人一人が記憶を承け継ぐために、異なる層/相で紡がれ続ける。生まれた時代、ジェンダー、ナショナリティ、「人種」、政治的立場が異なっても、人は自らの現在の生と、… もっと読む
神話は、社会に生きる一人一人が記憶を承け継ぐために、異なる層/相で紡がれ続ける。生まれた時代、ジェンダー、ナショナリティ、「人種」、政治的立場が異なっても、人は自らの現在の生と、自らが生まれ育った〈地〉を、それぞれの「神話」を通して記憶のなかで結び合わせている――。

いままで語られてきた「神話」は何を伝えうるのか。
あるいは、今、新たにどのような「神話」が求められるのか。
思考の枠組みの変化・生成を促すものとして「神話」言説が果たす役割を明らかにし、権威化と相対化を繰り返しながら変化をつづける、「神話」の実相を追究する。それはまさにいま現在の、現実の問題である。

本書は、さまざまな相貌を見せる神話〈ミュトス〉という言葉をとらえるために、
以下の3部立てで構成される。それぞれの部で中心となるキーワードも挙げる。

▼第Ⅰ部 ヨーロッパ社会における「知」の体系化――言葉で紡ぐ〈地〉
【キーワード】キリスト教、ウェルギリウス、聖書、西洋古典文学、体育、J・C・F
・グーツムーツ、植物学、ハインリッヒ・マルツェル、ギリシア哲学、プラトン、木村鷹太郎
▼第Ⅱ部 日本における「神話」の拡大――〈地〉の物語を編む
【キーワード】平田篤胤、神道、古事記、本田親徳、児島高徳、神武天皇、橿原宮、総力戦体制、日本の神話学、植民地
▼第Ⅲ部 「新」世界とせめぎあう近代知――〈地〉の記憶をまとう
【キーワード】探検家、博物学、ゲオルク・フォルスター、アレクサンダー・フォン・フンボルト、エルンスト・ヘッケル、アトランティス、レムリア、ムー大陸、マヤ神話、ポポル・ヴフ、ブラック・パンサー、マーベル・コミック、黒人

本書は、古代のギリシア哲学やキリスト教世界、総力戦体制下の近代日本、マヤ文明やムー大陸、マーベルコミックやその映画などの21世紀のポップカルチャーにいたるまで、扱う時代や地域、専門の異なる十六本の多彩な論考から、この問いへの応答を試みる。

執筆は、清川祥恵/南郷晃子/植 朗子/野谷啓二/上月翔太/田口武史/里中俊介/山下久夫/斎藤英喜/藤巻和宏/鈴木正崇/平藤喜久子/横道 誠/庄子大亮/José Luis Escalona Victoria/鋤柄史子。

【ミュトスは、必ずしも神の業や英雄の活躍を正典という形で語るものではなくとも、社会に生きる一人一人が記憶を承け、また継ぐために、異なる層/相で紡がれ続けている。二〇世紀の知識人がウェルギリウスを読むことと、二一世紀の子どもたちがマーベル映画を観ることに、直接的な関連性を見いだすのは牽強附会だと感じる声もあるかもしれない。しかし、生まれた時代、ジェンダー、ナショナリティ、「人種」、政治的立場が異なっても、人は自らの現在の生と、自らの揺籃としての〈地〉を、それぞれの「神話」を通して記憶のなかで結び合わせている。そして、ゆえに、画一的な唯一のミュトスは、人々自身が語り続けるかぎりは、決して存在しえない。人々は無数の語りを通して、語られなかったことの背後に、語る力を持たない者、語りを奪われた者の言葉をも聞くことができるのである。本書が「神話」に投じた光が、そのプロパガンダとしての側面を改めて照らし出すと同時に、抵抗の言説としての側面もまた反照していることを祈りたい。】…はじめにより

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