自著解説

『クリスマスがちかづくと』(福音館書店)

  • 2018/12/20
クリスマスがちかづくと / 斉藤 倫
クリスマスがちかづくと
  • 著者:斉藤 倫
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(56ページ)
  • 発売日:2017-10-04
  • ISBN:4834083632
内容紹介:
セロのおとうさんは、クリスマスはいつも、どこかにでかけたまま帰ってきません。実は、それには驚くような秘密があったのです。
『クリスマスがちかづくと』は、詩人の斉藤 倫さんによるクリスマスの物語。子どもたちの大好きなクリスマスがテーマですが、主人公の男の子セロは、「クリスマスなんて、だいきらい」……! このお話の鍵となる「サンタクロース」という存在をめぐって、斉藤さんが寄せてくださったエッセイをお届けいたします。作品と一緒に、ぜひお楽しみください。

サンタクロースがいなかった頃
斉藤 倫

ぼくがちいさかった頃、まだサンタはいなかった。

いないわけではなかったろうけど、起きると枕もとにプラスチックのブーツにはいったお菓子があって、それでおおよろこび。とくべつ、サンタがもってきた?とは、おもわなかった。


この『クリスマスがちかづくと』を書いているとき、あたまにあったのは、ディケンズの名作『クリスマス・カロル』だった。とはいっても、クリスマスということ以外は、どこも似ていない。あのように耐久性のある物語を書けるといい、と、ばくぜんとおもっていただけだ。

『クリスマス・カロル』は、強欲であわれみのないスクルージという男が、幽霊たちに出あって、改心する話。悔い改めと告白の物語で、やはりキリスト教の世界だなとおもう。

そこに、サンタクロースは、出てこない。

人間と神との関係性に、サンタクロースは、はいる余地がないようにおもえる。救うのは、あくまで神さまでなくてはいけないのだから、つきつめていくと、すこし、じゃまになるのだ。

いっぽう、常緑のもみの木が、クリスマスツリーとされたり、空とぶそりを、トナカイが引くことになったり。こんなことは、いつのまにか、つくられてきたことで、しらべてみると、偶然や、なりゆきの産物だったりする。

だけど、人間界からはみだし、こぼれてしまうものをあつかうときに、動植物が自然界から呼びこまれる、その手つきには、かならず、たしかな理由がある。サンタもそのひとつで、ぼくは、この物語で、サンタクロースをできるだけそういう〈よくわからないもの〉として描きたかった。人間とそれ以外や、家族とその外とのあいだを、いったりきたりするような。


セロという少年は、ちょうど十歳で、ひとという生物としての変わりめに立っている。ただし人間が変化するのは、動物ほど単純ではなくて、おおきな精神構造のわかれ道をともなう。存在として折れ曲がるといってもいいくらいだ。いまのひとは、それを人間関係のなかだけで、解決しようとしている。それは、むり筋だとぼくはおもう。

かつて、スクルージの時代には、まだ神があったので、人間関係には〈外〉があった。いま神がどこかに隠れてしまったときに、外を用意する必要がある。人間が変化するときには、かならず人間の外がないといけない。そのことがいまのひとたちには、見すごされているとおもう。

クリスマスのプレゼントは、お父さんやお母さん(もしくは、おじいちゃんやおばあちゃん)から、あげればすむことなのだけど、いちど、サンタという〈よくわからないもの〉をつくりだして、それに、あずけるようにしていく。

そのことのいみは、とても、美しいという直観がある。しなくてもいいことを、だれもが、だれからともなくしようとしているとき、そこにはかならず、最も大切なことが宿っている。


ちょっとまえまで、日本に、サンタは根づいていなかったけど、いまは信じている子たちがいるから、しっかり存在している。わたしたちのなにが、サンタをつくりだしたのか。『クリスマスがちかづくと』を読まれたかたが、そんなことにおもいをはせてくださったらうれしいとおもう。

むじゃきにその存在を信じていた子ども時代が、ぼくにはなかったけど、そんなわけで、サンタはいるか、と、きかれたら、おとなになったいまのぼくは、もちろん、と答えるだろう。

[書き手] 斉藤 倫(さいとう・りん)
1969年生まれ。詩人。2004年『手をふる 手をふる』(あざみ書房)でデビュー。2014年『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)が、初の長篇物語。同作で、日本児童文学者協会新人賞、小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『せなか町から、ずっと』(福音館書店)、『とうだい』(絵 小池アミイゴ/福音館書店)、詩集『さよなら、柩』(思潮社)など。また、『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版)に編集委員として関わる。
クリスマスがちかづくと / 斉藤 倫
クリスマスがちかづくと
  • 著者:斉藤 倫
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(56ページ)
  • 発売日:2017-10-04
  • ISBN:4834083632
内容紹介:
セロのおとうさんは、クリスマスはいつも、どこかにでかけたまま帰ってきません。実は、それには驚くような秘密があったのです。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

ふくふく本棚

ふくふく本棚 2017年12月4日

「ふくふく本棚」は、絵本・童話にまつわる記事を発信する、福音館書店の公式Webマガジンです。本の紹介や著者へのインタビューなど、絵本・童話のある生活がもっと充実するような情報をお届けしていきます。

関連記事
福音館書店の書評/解説/選評
ページトップへ