書評

『日本領サイパン島の一万日』(中央公論新社)

  • 2025/11/17
日本領サイパン島の一万日 / 野村 進
日本領サイパン島の一万日
  • 著者:野村 進
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(536ページ)
  • 発売日:2025-07-23
  • ISBN-10:4122076811
  • ISBN-13:978-4122076815
内容紹介:
手近なリゾート地というイメージが定着しているサイパン島は、第一次世界大戦中からアメリカによる占領までの約三十年間、日本の統治下に置かれた。移民によって開墾され、「南洋の東京」とし… もっと読む
手近なリゾート地というイメージが定着しているサイパン島は、第一次世界大戦中からアメリカによる占領までの約三十年間、日本の統治下に置かれた。移民によって開墾され、「南洋の東京」として栄えたが、やがて戦禍に──。「楽園」を求めて南の島に渡った二つの家族を通して、日本領サイパン島の歴史をダイナミックに描く。〈解説〉池澤夏樹

〈目次〉
プロローグ
第1章 漂着
第2章 獣の島
第3章 南洋成金
第4章 南洋の東京
第5章 北ガラパン二丁目大通り
第6章 南村第一農場
第7章 海の生命線
第8章 軍島
第9章 戦禍
第10章 収容所
エピローグ
解説 池澤夏樹
南洋のサイパン島は八王子市ほどの広さ。第一次世界大戦後に日本の委任統治領、太平洋戦争では日米の激戦地となって、五万七千(うち民間人一万数千)が死亡した。著者は1987年、改題前の本書『海の果ての祖国』で、本土防衛の最前線で生じたこの戦禍に至る同島の歴史を、「南洋成金」の山口百次郎、「小作農」の石山万太郎の対照的な二家族を軸にたどった。

戦時、サイパンの日本人は、「理想化された『祖国』日本への帰一願望」を抱いていた。大本営はつけ込むかのように徹底抗戦を強(し)い、爆撃を中心とする米軍の掃討作戦によって飢えと渇きの地獄絵図が展開された。

終戦後、内地に戻った正太郎(万太郎の息子)は、何事も知らず安穏と暮らす祖国の人々に愕然(がくぜん)とする。彼の手記には、洞窟の中で日本兵に手榴(しゅりゅう)弾を渡された男が周りに集団自決を促すと、一人の朝鮮人が、「アメリカ、ミンカンチンモ、コロシマスカ」と問うたと記された。それは大本営よりも「人として人を尊重する考えから出た問い」であった。

サイパンは日本現代史の凝縮である。そう確信する著者の、若き日の傑作である。
日本領サイパン島の一万日 / 野村 進
日本領サイパン島の一万日
  • 著者:野村 進
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(536ページ)
  • 発売日:2025-07-23
  • ISBN-10:4122076811
  • ISBN-13:978-4122076815
内容紹介:
手近なリゾート地というイメージが定着しているサイパン島は、第一次世界大戦中からアメリカによる占領までの約三十年間、日本の統治下に置かれた。移民によって開墾され、「南洋の東京」とし… もっと読む
手近なリゾート地というイメージが定着しているサイパン島は、第一次世界大戦中からアメリカによる占領までの約三十年間、日本の統治下に置かれた。移民によって開墾され、「南洋の東京」として栄えたが、やがて戦禍に──。「楽園」を求めて南の島に渡った二つの家族を通して、日本領サイパン島の歴史をダイナミックに描く。〈解説〉池澤夏樹

〈目次〉
プロローグ
第1章 漂着
第2章 獣の島
第3章 南洋成金
第4章 南洋の東京
第5章 北ガラパン二丁目大通り
第6章 南村第一農場
第7章 海の生命線
第8章 軍島
第9章 戦禍
第10章 収容所
エピローグ
解説 池澤夏樹

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年11月8日

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