コラム

粋で知的な空間INAX(現LIXIL)の書店

  • 2017/09/29
二年ほど前になるが、タイルや衛生機器の専門メーカーの株式会社INAX(事務局注:現LIXIL)が、京橋の一等地に持っているビルのショールームを潰して本屋にすると聞いた時はめんくらった。同社は自社ビルの二階をだいぶ前からINAXギャラリーにして〈銭湯展〉や〈リカちゃん人形展〉や〈建物のカケラ展〉といった、ちょっと他ではやれないような珍しい企画展を重ねているから時どき出かけるのだが、そのギャラリーの下の階、つまり大通りに面した一階のショールームをなくして本屋にするというのだ。(事務局注:現LIXILブックギャラリー)

聞くと、並べる本の内容は固まっていないが、店員第一号だけは決まっていて、平野民子さんが準備のため渋谷の書店で見習い修行中だという。彼女は、隆盛期の『流行通信』誌を作った編集者で、本を作る側から売る側に移行するわけだが、それなら期待できるナ、と思った。

日本の書店というのは他の商売とちがい、自前で品ぞろえをしなくて、たいていは取次から送られてくるのを並べるだけだから店ごとの個性に乏しいが、平野さんが店員になるなら彼女の好みの本が並ぶ可能性がある。とすると、日本には、これまでなかったタイプの本屋さんになるかもしれない。

というような期待がありまして、さて”INAXブックギャラリー”が実際、京橋三-六にオープンして二年目になる。

最初のうちはカウンターに平野さん一人が立っていたが、このところは二、三人いるから小さい店ながらもしっかりやっているようだ。INAX文化推進部チーフディレクターの入沢ユカさんに聞くと、「目標額は突破して順調です」とのこと。

本の品ぞろえは、デザイン、建築、写真、インテリア、街、住まい、といったあたりを軸としているが、さすがは「独断と偏見で並べてます」というだけあって、恐竜の本や花の本や博物学の本もある。傾向としては、絵や彫刻といった純粋な美術本を除いた視覚領域をねらっているようだ。

さて、この小さな本屋さんは株式会社INAXの文化推進部に属するわけである。このところ民間企業の文化事業は盛んだが、たいていは演劇や美術展やコンサートといった、人がたくさん集まる興行的な分野ばかりで、いかにも間に広告会社が入っている感じが強いのだが、そうした中で本屋というのは気持ちがいい。企業は文化を考えるとき、”知”の領分についても忘れないでほしい。

【このコラムが収録されている書籍】
建築探偵、本を伐る / 藤森 照信
建築探偵、本を伐る
  • 著者:藤森 照信
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(313ページ)
  • 発売日:2001-02-10
  • ISBN-10:4794964765
  • ISBN-13:978-4794964762
内容紹介:
本の山に分け入る。自然科学の眼は、ドウス昌代、かわぐちかいじ、杉浦康平、末井昭、秋野不矩…をどう見つめるのだろうか。東大教授にして路上観察家が描く読書をめぐる冒険譚。

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