居酒屋でバターコーンを頼み、14粒しか実が入ってなかったら怒るだろうか?僕なら怒る。ではその14粒が店長によって丁寧に育てられ、愛情を注がれていたとしたら?それでも怒るだろう。店長がテーブルの横に来て、14粒それぞれについて出会った日のエピソードや思い出を語ってくれたら?もう怒らない。その状況が面白くて笑ってしまうかもしれない。動画を撮らせてもらうかもしれない。トウモロコシ1本にはおよそ600粒の実がなると言われている。その中から選りすぐりの14粒。どんな味か気になる。
エッセイスト中前結花さんの初のエッセイ集『好きよ、トウモロコシ』には、愛に溢れた14本のエッセイが収録されている。中前さんの人生を彩った人やモノとの出会い、感情を揺さぶった出来事、本や文章を書くことへの想いなどが、主観を大切にしながら丁寧に丁寧に綴られている。中でも、自分を歌手だと思って疑わなかった子供時代を描いた『踊るほっぺ』に笑わされ、母への愛と東京での孤独な日々を見つめ直した『プールの底で考え中』に号泣させられた。中前さんは何かを好きになること、何かを愛することが人よりちょっと得意なんだと思う。トウモロコシには太い芯がある。このエッセイ集の14粒の実も、中前さんの“今・過去・未来を愛する”という芯にしっかり結びついていた。大満足の14粒、きっとあなたを優しく包んでくれます。
【書き手】ファビアン
1985年11月6日生まれ。徳島県徳島市出身。日本人の母とドイツ人の父を持つ。2009年、吉本総合芸能学院(NSC)を卒業し、吉本興業所属の芸人に。同期の小川とあわよくばを結成。2016年に、一度解散。以後、執筆活動を開始し、「渋谷ショートショート コンテスト」優秀賞、「小鳥書房文学賞」などを受賞。解散から二年後、あわよくばを再結成。2023年『きょうも芸の夢をみる』を発売。