読書日記

米光 一成「新刊めったくたガイド」本の雑誌2005年1月号―斎藤美奈子『物は言いよう』(平凡社)、金原瑞人『大人になれないまま成熟するために』(洋泉社)、他

  • 2018/03/24
(頭抱えて)こまってるんですよー。斎藤美奈子『物は言いよう』(平凡社/一六〇〇円)って本で、「セクハラですッ!」って口にするのはキツすぎる場合に、ピッタリくるのは「FC的にどうよ」だ、と提案してるのね。FCってのはフェミコードの略で、性別にまつわるおかしい言動を検討するための基準のこと。FCセンスを鍛えるためにダメ例をあげて斬りまくってる痛快本なんだけど。

よわっちゃうのが「ぼく」問題。哲学者・東浩紀の文章が、イラストライター・326(みつる)の文章にそっくりだって指摘してる項があって。そこでFC的非難をあびせられるのが、一人称の「ぼく」なんですよ。〝日本語文章のファルス(男性器)である〟なんて言われちゃうのなー。ぼくも一人称「ぼく」なので、えぇぇ、どうしよう、私とか小生にすべきかッって悩んじまうよね、初回の原稿だし(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2005年1月)。

物は言いよう / 斎藤 美奈子
物は言いよう
  • 著者:斎藤 美奈子
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(334ページ)
  • 発売日:2004-11-10
  • ISBN-10:4582832415
  • ISBN-13:978-4582832419
内容紹介:
性や性別についての望ましくない言動を検討するための基準です。しかし、意識のありようまではとやかくいいません(心の中で「このブス」「このクソババア」と思うのはかまわない。)せめて、お… もっと読む
性や性別についての望ましくない言動を検討するための基準です。しかし、意識のありようまではとやかくいいません(心の中で「このブス」「このクソババア」と思うのはかまわない。)せめて、おおやけの場ではそれに相応しいマナーを身につけよう、との趣旨で考案されました。本書を通して、笑いながらFC(フェミコード)感覚を身につければ、いやーなセクハラ、思わぬセクハラとは、もうさようならです。

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でも、「ぼく」以外の一人称がうまく使えないってところを起点にして、大人らしい大人になれない自分をどう生きるかを語ってる本もある。金原瑞人『大人になれないまま成熟するために』(洋泉社/七四〇円)で、サブタイトルが〝前略。「ぼく」としか言えないオジさんたちへ〟。アンチ権威主義で、フェミ的にも歓迎されるスタンスだと思うんだけどなぁ。

大人になれないまま成熟するために―前略。「ぼく」としか言えないオジさんたちへ / 金原 瑞人
大人になれないまま成熟するために―前略。「ぼく」としか言えないオジさんたちへ
  • 著者:金原 瑞人
  • 出版社:洋泉社
  • 装丁:新書(221ページ)
  • 発売日:2004-10-00
  • ISBN-10:4896918568
  • ISBN-13:978-4896918564
内容紹介:
三十を過ぎた、いい大人がなんで「ぼく」なんだ!?こんな言い方が喝采を浴びることがある。しかし、本当にそう言えるのか。「ぼく」たちは、逆に「大人になれない大人」にとどまるべきではない… もっと読む
三十を過ぎた、いい大人がなんで「ぼく」なんだ!?こんな言い方が喝采を浴びることがある。しかし、本当にそう言えるのか。「ぼく」たちは、逆に「大人になれない大人」にとどまるべきではないのか。団塊の世代にはじまる世界的な「若者の時代」を復習し、若者に“No”と言って、事足れりとするのではなく、自らの「子ども大人」性を自覚した嘘のない生き方をめざす。ヤングアダルト文学、現代の若者文化、その断絶と連続…「ぼくたち」を条件づけている社会環境から若者に対する視線を取り出し、大人になれないことを許容したまま、成熟の道を探れ!あらゆる両義性を引き受ける、ポップで少しだけ重い人生論。

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何故音楽シーンにロックが登場したか、ヤングアダルト小説『アウトサイダーズ』(S・E・ヒントン著)が克服した課題とは何だったのか、なんてところがおもしろいし、まじめな「DT」本としても読めるし、団塊の世代への愚痴にも読める。聞き書き本なのに、修飾句が長くて文章が読みにくいのが残念なんだけどね。

アウトサイダーズ / S.E. ヒントン
アウトサイダーズ
  • 著者:S.E. ヒントン
  • 翻訳:唐沢 則幸
  • 出版社:あすなろ書房
  • 装丁:単行本(287ページ)
  • 発売日:2000-05-00
  • ISBN-10:4751518119
  • ISBN-13:978-4751518113
内容紹介:
アメリカ青春小説の傑作。17歳少女の鮮烈なデビュー作!映画「アウトサイダー」原作本。

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ぼく問題を考えると、ぼくぼく言う人よりも恐ろしいのが、一人称単数を使わない人たちじゃないかな。ぼくって言わずに「わたしたちは」とか言っちゃって自分の責任を薄めちゃうようなタイプ。そういう己をちゃんと持たない人に苛立ってるのが森達也。彼の『世界が完全に思考停止する前に』(角川書店/一三〇〇円)は時事ネタの短いテキストを集めた本だから、そういった苛立ちがストレートに出てておもしろい。「主語のない述語は暴走する」なんてタイトルもあるし。「タマちゃんを食べる会」ってのもあるよ。

世界が完全に思考停止する前に / 森 達也
世界が完全に思考停止する前に
  • 著者:森 達也
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(279ページ)
  • 発売日:2006-07-01
  • ISBN-10:4043625030
  • ISBN-13:978-4043625031
内容紹介:
地下鉄サリン事件から11年、9.11から5年。イラク戦争から3年…。過剰な善意や偏ったヒューマニズムが蔓延する中、いま僕たちはかつてないスケールの麻痺を抱えて生きている。一方テロへの不安か… もっと読む
地下鉄サリン事件から11年、9.11から5年。イラク戦争から3年…。過剰な善意や偏ったヒューマニズムが蔓延する中、いま僕たちはかつてないスケールの麻痺を抱えて生きている。一方テロへの不安から社会は異質の者への憎悪を加速し、管理統制下の道を辿り続ける。この現実を前に僕らは「一人称の主語」で思考しているか。他者へ想像力を馳せているか。いま最も信頼できるドキュメンタリー作家が煩悶しながら問いかける、まっとうな「日常感覚」評論集。

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抗議されて、作品を簡単に封印しちゃうのも、やっぱり一人称単数的な覚悟がないからだと思うんだけど、安藤健二『封印作品の謎』(太田出版/一四八〇円)は、まさにそこに迫る本。『ウルトラセブン』十二話や、映画『ノストラダムスの大預言』や、『ブラックジャック』の脳関係のエピソードなどが、どうして封印されちゃったかを探るルポタージュで、なかなか「ぼくの作品だ!」って言う人にたどりつけないのが興味深い。

封印作品の謎 / 安藤 健二
封印作品の謎
  • 著者:安藤 健二
  • 出版社:太田出版
  • 装丁:単行本(261ページ)
  • 発売日:2004-09-01
  • ISBN-10:4872338871
  • ISBN-13:978-4872338874
内容紹介:
DVDや衛星放送が普及し、あらゆる"埋もれた名作"が発掘、復刻されている21世紀。しかしその片隅では、存在のみ知られながら、いまだ決して目にすることができない一部の作品群が、ひ… もっと読む
DVDや衛星放送が普及し、あらゆる"埋もれた名作"が発掘、復刻されている21世紀。しかしその片隅では、存在のみ知られながら、いまだ決して目にすることができない一部の作品群が、ひそかに語り継がれ続けている。これらの物語は、いったいなぜ「封印」されてしまったのか?誰が、いつ、どこで、「封印」を決めたのか…?大学生時代、ネット上での酒鬼薔薇聖斗の顔写真公表の動きに関わった経験も持つ著者が、戦後の特撮、マンガ、ゲームを中心に、関係者の証言を徹底的に集め、その"謎"に迫る。必読の新世代ルポルタージュ。

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菊池成孔+大谷能生『憂鬱と官能を教えた学校』(河出書房新社/三五〇〇円)は、バークリー・メソッドと呼ばれる音楽教育システムについての講義の記録。

簡単に言えることを、哲学用語や難しい言葉使ったりして言う人のことを、わたくしは「難解ポエマー」って呼んでるんだけど、菊池さんは、いい難解ポエマー。難しい言葉を使うんだけど、それがカッコイイし、意味が伝わる。音楽に詳しくないから、わからないところもたくさんあるけど、読んでて楽しかった。オススメ。

憂鬱と官能を教えた学校 / 菊地 成孔,大谷 能生
憂鬱と官能を教えた学校
  • 著者:菊地 成孔,大谷 能生
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(361ページ)
  • 発売日:2004-09-11
  • ISBN-10:4309267807
  • ISBN-13:978-4309267807
内容紹介:
「音楽」を愛する技術 20世紀中盤に登場し、ポピュラー音楽家たちの間に爆発的に広まった音楽理論"バークリー・メソッド"とはいったい何か?現在の音楽シーンを牽引するミュージシャンと気鋭の音楽批評家のコラボレーションによる前代未聞の音楽講義録、ついに刊行!クールな知的興奮と微妙なギャグのランデヴー。

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ポール・スローン+デス・マクヘール『ポール・スローンのウミガメのスープ』(エクスナレッジ/一三〇〇円)は、推理問題集。たんなるクイズじゃなくて、おおぜいで遊ぶ推理合戦ゲームってところがミソ。

たとえば、「ある日、男がレストランでウミガメのスープを注文して飲んだ。その後、男は自殺した。何故だ?」って問題。で、みんなで質問する。「値段が高かった?」とか。出題者はあらかじめ解答を知ってるんだけど、「イエス」「ノー」「関係ない」しか返事しない。それで質問を重ねていって答えに近づいていく。「ウミガメ飼ってた?」「ノー」「船乗りだった?」「イエス」「過去に何かあった?」「イエス!」ってノリで。驚愕の真相に辿りつくまで、全員が探偵になってミステリー小説に入り込んだような興奮を味わえるので、ぜひ遊んでみて。問題が粒ぞろいな『推理クイズ道場ウミガメのスープ』(バジリコ/一二〇〇円)って本もあります。

ポール・スローンのウミガメのスープ / ポール・スローン,デス・マクヘール
ポール・スローンのウミガメのスープ
  • 著者:ポール・スローン,デス・マクヘール
  • 翻訳:クリストファー・ルイス
  • 出版社:エクスナレッジ
  • 装丁:単行本(176ページ)
  • 発売日:2004-10-20
  • ISBN-10:4767803322
  • ISBN-13:978-4767803326
内容紹介:
「水平思考推理ゲーム(Lateral Thinking Puzzles=LTP)」は、出題者の出す謎を、解答者(3人から8人くらいが適当)がさまざまな推理を働かせて解くゲームです。ほかの解答者が、ユニークな発想を… もっと読む
「水平思考推理ゲーム(Lateral Thinking Puzzles=LTP)」は、出題者の出す謎を、解答者(3人から8人くらいが適当)がさまざまな推理を働かせて解くゲームです。ほかの解答者が、ユニークな発想をするかもしれません。また自分の質問が、ほかの解答者にひらめきを与えることもあるでしょう。本書では「ヒント」が、出題者とほかの回答者の代わりを務めます。できる限り柔軟に発想し、想像力を働かせて、真実をつきとめましょう!問題を解いたら、次はあなたが出題者になる番です。推理ゲームが好きな人を集めて、本書から出題してみましょう。勝ち負けにこだわらず、楽しい会話になるよう、解答者をうまくリードしていきましょう。

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推理クイズ道場 ウミガメのスープ / 海亀 素夫
推理クイズ道場 ウミガメのスープ
  • 著者:海亀 素夫
  • 出版社:バジリコ
  • 装丁:単行本(170ページ)
  • 発売日:2004-07-00
  • ISBN-10:490178448X
  • ISBN-13:978-4901784481
内容紹介:
男がレストランでウミガメのスープを注文して一口食べた。その後、男は自殺した。なぜか?難問、奇問、良問130題。漫画家にぎりこぷしの爆笑1コマも満載。

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そ、そして、オレをびっくりさせたのが、朱門『ありがとうのワークブック』(GAM出版/八〇〇円)! 開運のために四千回掛ける年齢分の「ありがとう」を、とにかくつぶやけっていう最初の説明をのぞくと、あとは全ページ「ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう」と〝ありがとう〟が一万個印刷されている奇書。(本を頭上に掲げて)今月の奇想本大賞に決定! 「ありがとう」の言霊のパワーに気づいたきっかけもすごい。近所にコンビニがたくさんあるけど何故かサンクスばかり行ってしまうから、サンクス(ありがとう)って言葉に力があるんだって気づいたそうですよッ。

ありがとうのワークブック / 本田 朱門
ありがとうのワークブック
  • 著者:本田 朱門
  • 出版社:ガム出版
  • 装丁:単行本(194ページ)
  • 発売日:2004-10-01
  • ISBN-10:4902870002
  • ISBN-13:978-4902870008
内容紹介:
「ありがとう」という言葉に謎の力があることを、あなたは知っているだろうか。「ありがとう」と思う、あるいは発声することによって何かが変わる、あるいは起こる。そしてそれは決して抽象的… もっと読む
「ありがとう」という言葉に謎の力があることを、あなたは知っているだろうか。「ありがとう」と思う、あるいは発声することによって何かが変わる、あるいは起こる。そしてそれは決して抽象的であったり、心理的なことではなく物理的に、目に見えて何かが変わる、あるいは起こる。自分と世界を変えるという意味で最も強い力を持った言葉が「ありがとう」という誰もがよく使っている、子供でも知っている言葉だった。もしそれが本当だとしたら、それをどう使ったら何がどう変わるのか…。これは普通の本ではありません。使って貯めるワークブックです。

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荒井良二『ぼくとチマチマ』(学研おはなし絵本/一二〇〇円)は、絵本。猫を拾ったぼく。よあけがやってくる。鳥がやってきて、たいこがやってきて、スープがやってくる。チマチマは猫の名前。朝がやってくる。ただそれだけ。それだけなんだけど、今月、一番くりかえして読んじゃった本。自分の殻をやぶってくれる音楽に出会った時のように何度も読んだ。こどもの絵なの。スープなんて、えんぴつで「スープ」って書いてるんだよ。こどもがぐーでえんぴつ握って描いたような影とか。読むたびに子どもにもどってニコニコになるよね。

ぼくとチマチマ / 荒井 良二
ぼくとチマチマ
  • 著者:荒井 良二
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:大型本(0ページ)
  • 発売日:2004-09-00
  • ISBN-10:405202253X
  • ISBN-13:978-4052022531

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うーん、やっぱり、「ぼく」でやっていこう。未熟で甘えてるって非難されるかもしれないけど、まぁ未熟なんだからしょうがない。開き直りじゃない。使いなれない人称を使って、自分らしくないことをやるのヤだから。ぼくがおもしろいと思った本を、素直にオススメするようにがんばりますってことで。よろしく。

あー、最後に漫画だけど、すげぇぇぇので紹介。新條まゆ『ラブセレブ①』(小学館/三九〇円)は、日本最高の権力者にして超絶美形男子に惚れられた少女が、処女喪失寸前までいくたんびにトップアイドルへの道を(権力を使って)駆け上っていくとゆー現代少女の願望充足漫画の頂点ッ、かるちゃーしょぉぉぉっくですよ、お父さん! 美形権力男の一人称は「俺」です、「ぼく」とか言ってちゃモテないかもーーッ。では、また。

ラブセレブ 1 / 新條 まゆ
ラブセレブ 1
  • 著者:新條 まゆ
  • 出版社:小学館
  • 装丁:コミック(172ページ)
  • 発売日:2004-09-24
  • ISBN-10:4091384838
  • ISBN-13:978-4091384836

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